雨~秋の花火


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次の日も、その次の日も悟は仕事へ行った。ここ最近は雨ばかりだった。近づいていた台風は低気圧に変わり、日本列島を覆う形でゆっくり進んでいた。そんな日でも、悟は仕事に行った。作業用のカッパは支給されるけど、かなり蒸れるらしく、雨の日の作業はきついらしい。そんな日は決まって参加する社員が少なかった。でも、悟は毎日出かけて行った。稼がなくちゃいけない理由があるとすれば、別れた妻への慰謝料や養育費だろう。悟も毎日努力していた。考えてみれば当たり前のことだ。皆、そうやって努力しているのだろう。でも、悟のそんな姿はすごく新鮮だった。雨は数日降り続き、止んでも空は晴れなかった。

 

俺は寮で自分の仕事をしたり、筋トレをしたり。雨が降らないときは外を走った。福島は復興こそまだまだだけど、建物は整えられ、道や歩道も整備されている。皮肉にも、震災の後の方が綺麗になった場所もある。失ったものがあれば得られたものもあるのだろう。悟が帰ってくると、一緒に夕飯を食べて風呂に入る。そのあとは雨が降っていなければ外で飲む。外で飲めない日はさっさと寝る。それが日課になった。時々他のみんなも一緒に飲む。まるであの嫌な出来事がなかったかのように楽しく過ごした。悟とは特別話はしない。他の人たちがいるときは相変わらず俺とはそれほど話さないし、二人で飲むときは俺が話してばかりだった。昔のままだった。

 

 

久しぶりの晴れた日曜日。今日は悟も仕事はない。もうすぐ夏も終わる。カレンダーはいつのまにか9月になっていた。

飲み屋街の方が昼間から賑やかだった。車も多いし、他の地域から人も来ているようだった。

「なあ、今日は何かあんのかな?」

俺はコンビニで悟と昼食を買いに来ていた。

「ああ、たまにあるんだよ。ボランティアに来てくれた人たちにいろいろ出すんだ。感謝祭みたいなやつ。」

「へぇー。出店とか出んの?」

「ああ。」

「行きたいな。駄目かな?」

俺は車が向かう先をただ見つめていた。子供のようにわくわくしていた。夏らしい事って言ったら悟が時々連れて行ってくれる海くらいで、悟は一人でサーフィンだし、朝早いから俺は泳ぐ気にはなれないし。そもそも水着もない。福島で海に来るとは思わなかったから。東京にいると、地方のことは何も分からない。

この前の居酒屋での出来事があってからは、俺も繁華街の方へはあまり行っていなかった。悟や他の社員たちに気を使っていた。街に行ったら、また悟が嫌な思いをするのかもしれないと思い、遠慮気味に聞いた。

「行くか?」

悟は買ったばかりのアイスをほおばりながら言った。悟はそれほど気にしていないようにあっさりと答えた。

「マジ?!」

俺は飛び跳ねるくらい喜んだ。悟は俺の顔を見てくすりと笑い返事をした。

「ああ。」

感謝祭だからいつもより寛大に迎えてくれるのかもしれない、そんなことを思いながら街の方へ向かう。

 

いつもよりも随分賑やかだった。本当にお祭りみたいだった。お祭りに出ているような出店はなかったけど、それぞれのお店が外でいろいろ売っていた。さすがに無料で配っているわけではなさそうだ。それにそれほど安くもない。

以外にも若い人もたくさんいた。子供やテレビ局まで来ていた。でも、寮の人たちは来

ていないみたいだ。

俺は大分テンションが上がっていた。久しぶりのイベントにわくわくしていた。

「何食おうかなー。」

いろいろ目移りする。悟にも何か買ってあげようと思った。普段行くことができない居酒屋や飲食店の店員たちが、外で軽食やお酒を売っている。見たことない人ばかりで除染作業員ともそれほど顔を合わせないからか、悟の顔を見ても嫌悪感は示されなかった。でも、あからさまに俺たちを避けるような人も中にはいた。俺も悟も気にせずにいた。

「なんか食いたいのあったら言えよ!」

俺は少し自慢げに言った。でも、悟から返事はない。ふと見ると表情が暗かった。どこかを見つめている。俺の話も聞こえていないみたいだった。悟の視線の先には、この前女将さんのお店で話していたスーツの男がいた。とても感じが悪かったのが印象的で覚えていた。男の人はテレビの取材を受けていた。

「やっと、この街も笑顔が戻ってきて、ここからっていうところまで来れました。ボランティアの方々には本当に感謝しています。」

テレビカメラに向かってそう話す男の表情はこの前とは違い優しそうなおじさんという感じだった。

「悟ちゃん。」

その時、後ろから声をかけられた。振り向くと女将さんがいた。少し遠慮気味に声をかけてきた。俺は軽く会釈をした。

「よかったらこれ・・・食べて・・・じゃあ。」

女将さんは前よりも控え目で優しい口調でそう言うと、俺たちにビニール袋を手渡した。何か言いたげにしていたけど、それ以上何も言わずに悟と俺に軽く頭を下げて行ってしまった。悟は返事もせず、挨拶もせずに黙って受け取った。俺はどんな顔して、どんな言葉を交わせばいいのか分からず、何も言えなかった。女将さんは自分の店の前まで戻っていくと他のお客さんの接客を始めた。ちらっとこっちを見たが逃げるように視線を逸らした。悟も俺も呆然と立ち尽くしていた。

「何・・・もらったの?」

悟は袋の中を開けて確かめた。

「食うか?」

中を見せてくれた。タコ焼きが入っていた。

「うん。」

近くの公園に行ってタコ焼きを食べた。二人で分けた。

「あの男の人ってさ、偉い人?」

「ああ、よくわかんねーけど。この辺の会長みたいな感じじゃね。」

「へー、そうなんだ。」

「なんかあると、結構出てくるよ。うちの会社にクレーム入れてくるのもだいたいあの人。」

どうやら、住民は自分の口からではなく、あの男を通していろいろ言ってくるらしい。

「そうなんだ。嫌な役回り押し付けられてんだか、嫌な奴なんだか。どっちにしても俺あいつ嫌いだ。」

俺はタコ焼きを口に入れながら愚痴をこぼす。

「あいつのことはみんな嫌いだよ。」

そう言うと残りのタコ焼きを俺にくれた。

 

 

俺たちは結局タコ焼きだけ食べて帰った。部屋で適当に過ごし、久しぶりに外で悟とスパーリングもした。やっぱり強かったけど、俺も案外衰えてなくて、それなりに相手ができたと思う。そのあと夕食を食べて、いつも通り外で飲んだ。

 

「お前さ、いつまでいんの?」

「え?いつまで?」

「ああ。」

「んー、とりあえず花火大会10月だろ?それまではいるよ。」

「そのあとは?」

悟は少し酔っているみたいだ。でもいつもほどテンションは高くない。まだシラフみたいなものだ。

「わかんねーけど、さすがに帰るよ。お前にも迷惑だろうしな。寮にいつまでも俺が住んでちゃ会社的にもまずいだろ。」

「・・・。」

悟は何も答えなかった。さすがに10月には帰ろうと思っていた。3か月もいることになるとは思っていなかったし、東京に家も借りている。

「3か月も東京の家、家賃無駄に払ってるんだぜ?まあ、こっちは家賃ないからいいけどさ。お前こそ、この先どうするか決めてんの?しばらくはいいけどそのあとは?」

俺はすっかり普段の会話と同じように話していた。後ろに手をつき、空を見上げるような姿勢で何気なく話す。そのまま横になってしまいそうな勢いだ。

「そのあとはまた仕事探すよ。」

悟は工場勤めも経験がある。きっと何でもできるだろう。体を使う仕事にそれほど抵抗はないらしい。

「あ、そうか。何でもできるもんな。」

俺は持っている酒を飲み干す。そして足元に置いたビニール袋から新しい酒を出した。開けて一口飲んだその時だった。

「ずっとここにいろよ。」

俺は口に含んだ酒をこぼしてしまった。思わず咳き込んでしまう。

「おい!変なこと言うなよ!零しただろ。」

悟は何も言わない。ふと見ると空を見上げたままだ。

「そんなん無理に決まってんだろ。だいたい、会社にばれたらやばいだろ。」

俺はすっかり冗談に突っ込むつもりで話していた。でも、悟は何も言わない。俺はそんな悟の様子に気が付いた。

「・・・悟?」

何も言わない悟の顔を覗き込む。するとこっちを見て言った。

「まだあいつのこと好きなのか?」

「は?」

悟は真面目な顔して、普段と変わらない口調で言う。俺は一瞬固まった。

「時々考えてんだろ?まだ好きなのか?」

俺は酔いが一気に冷めてしまった。何も言えなくなってしまった。急に、いろいろ蘇ってきた。あの辛い日々が急に頭の中を過った。

「まだ辛いのか?」

俺は、前を向いたまま必死に探していた。今までみたいに上手に答えようと必死になっていた。だけど、何も見つけられない。思わず持っていた酒を一気に飲み干し、ビニール袋に入った酒を出す。これ以上、何も聞きたくなかった。せっかく忘れていた記憶が蘇ってくるのは耐えられそうになかった。訳がわからなかった。何度もあいつの顔が浮かんできた。俺は逃げるように酒を飲んだ。

「おい、飲みすぎだぞ。」

悟が俺の手を掴んだ。その瞬間、俺はその手を思い切り振りほどいて立ち上がる。俺は完全に自分を見失っていた。動揺していた。あんなに簡単に自分が崩れていくのを信じることができなかった。今まで前に進んでいたような気がしていたのに。やっと立ち直れたと思っていたのに。悟のあんな簡単な一言で、どうして俺はこんなにも怯え、戸惑っているのか。何もわからなかった。悟の優しさだったのかも知れない。でも、自分がなにも受け入れられず、まだこんなにも傷ついたままだという事実を、今まで自分が逃げてきた事実をいきなり押し付けられたみたいで、俺は悟の顔を見つめたまま何も言えず、何もできず固まってしまった。悟は俺の様子に驚きもせず、戸惑いもせず、変わらず真剣な顔で言った。

「お前が辛いなら・・・俺が・・・。」

悟は言いかけて急に視線を落とす。

「・・・は?」

悟の言いかけた言葉、だいたい察しがついた。だから、なんだか腹が立った。

「お前がなんだよ。」

俺は悟をきっと睨みつけていただろうか。それとも裏切られたような悲しい顔をしていたのだろうか。どちらにしてもその顔を見て悟は傷ついたと思う。

「俺のこと馬鹿にしてんのか?」

「・・・俺は。」

「そんなこと聞きたくない!」

悟のその言葉を最後まで聞く前に、俺は持っていた酒の缶を、思い切り悟に投げつけた。悟は手で顔を隠す。缶は悟の胸の辺りに当たって中の酒が服を汚した。思い切り怒鳴ってしまった。

「・・・悪かった。」

悟はそう言うと、缶を片づけ、部屋に戻った。

 

俺はゲイだ。悟は違う。そんなこと何も知らないくせに、軽くあんなこと言われたからなんだか腹が立って。もしも俺が、悟を好きになったって絶対に叶わない。辛い恋愛はもうしたくない。だから悟に会いに来たのに。悟は俺を傷つけたりしない、そう信じていたのに、どこか裏切られたようだった。俺が辛いならどうするつもりだったんだろう。傍にいてやるとか、話を聞いてやるとかそんなことだろうか。そうやって優しくされるのがすごく嫌だった。

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悟は酔うといつも俺に絡んできていた。女の子の隣に座り、それぞれ話しているのに、いつの間にか俺に絡んできた。テーブルの端にいても、関係なく絡んでくる。

「俺はあいつのことが好きなんだよ!」

俺が女の子と話しているのに、俺に聞こえるようにわざと大きな声で言う。悟の方を見ると今にもキレそうな顔で俺を睨んでいる。悟の隣の女の子はその光景がおかしくて笑っている。俺と話している女の子も気を使って、「仲いいんだね。」なんて言ってくる。俺は女の子と話をするためにそんな悟のことを無視する。

「おい!お前聞いてんのか!」

悟の口調がどんどん強くなっていく。女の子が気を使って、悟がどれだけ俺のことが好きか、悟がそんな話をしていたことを言ってくれる。

「いいよいいよ、放っといていいから。」

俺はいつも悟の相手はしない。酔っているし、すぐに忘れるし、第一、なんて答えていいかわからないし。

「俺はお前が好きなんだよ!」

悟は妻もいて子供も生まれた。俺のことが好きというのは友達として。わかっていた。

「おい!お前が好きなのによ!なのに、お前は!」

当時、俺は彼氏を愛していた。傷つくくらい、好きだった。悟の好きに意味なんかない。わかっていた。

「おい!」

「わかったよ!」

俺はうっとうしそうに返しては、すぐに女の子との話に戻る。気にしていないふりをする。

 

でも、きっとどこか嬉しかったんだと思う。

 

店を出ると、悟は習った格闘技で殴りかかってくる。俺はそれをするりとかわし、悟を押し倒す。地べたに倒れた悟を見て俺はふざけて笑ったり挑発する。そして女の子のところに行く。悟を一人残して。傍から見れば酔っ払いのじゃれあい。悟は俺に敵わないと知ると、次は俺のそばに来て肩を組んで、同じことを言い始める。

「俺はお前が。」

「わかった、わかった。ほら、次の店行くぞ!」

そう言って二人で肩を組んで歩きだす。

次の日は決まって覚えていないか、その話は避けたがる。

「その話、パス。」

そう言って黙ってしまうのが常だった。

肩を組んでいる間も、俺は女の子と話をする。悟は店に着くまでの間、ぐったりしている。俺の肩で。俺は悟の手をしっかりと握り、悟が落ちないように支えていた。もう片方の手は悟の肩を掴み、悟が転んでしまわないように支えた。それは、あの時の悟は、なんだかか弱くて小くて、俺がいないと一人ぼっちになってしまうさみしい奴に思えたから。俺は相手にしないのに、あんなに真剣に叫んでいたから。だから俺が支えた。転んでしまわないように、どこかへ行ってしまわないように、悟を支えて連れて行った。

 

 

ベンチに一人掛けて、悟に缶を投げつけた自分の手を見つめていた。

 

久しぶりの青空は、夜、星空に変わっていた。ここは、星がよく見えた。周りに大きな建物もないし、民家もない。すぐそこには木が生い茂っていて、寮の明かりもそれほど明るくはない。

俺は大きくため息をついた。ベンチには開いていない酒の缶が一つあった。悟が俺のためにわざと置いて行ったのだろう。袋にはまだ酒が入っていたけど、一つだけ残して後は持って帰ってしまった。俺が投げつけた酒の缶もちゃんと片付けて行った。

「俺、何してんだろ。」

また、自分が嫌になった。また、後悔していた。

腹が立ったのは悟にじゃない。あんなにも簡単に崩れてしまった自分自身にだ。ぶつけようのない怒りを優しく声を掛けてくれた親友にぶつけてしまったんだと、気がついた。確かに、俺はまだ何一つ乗り越えていないのかもしれない。弱いままだし、逃げてばかりだし。一時間くらい、また思い出していた。あいつのこと、自分のこと。

でも悟との思い出を思い出したら、少し落ち着けた。そんな身勝手で簡単な自分に、やっぱり腹が立った。

 

俺は酒を飲まずに、部屋へ戻ることにした。

悟はもう寝ていた。

「・・・さっきは・・・ごめん。」

俺はベッドの横に立ち、背を向ける悟にそう呟いた。

悟は俺が寝られるスペースを開けてくれていたけど、俺はベッドでなく、床に寝た。

 

 

次の日、起きるとすでに悟は仕事へ行っていた。俺の体にはタオルケットがかけられていた。

 

外は雨だ。

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