告白~秋の花火


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花火大会まであと1週間。ここ最近はよく晴れるようになった。しばらく雨は降っていない。降っても小雨ですぐに止んだ。

悟と俺は特に何も変わらなかった。気まずくなったわけでも、仲良くなったわけでもない。一緒にいるときは今までと同じ。だけど、俺はどこかさみしさを感じていた。

 

夕方、寮のいつものメンバーと一緒に花火大会の会場に来ていた。寮の人たちとはすっかり仲良くなった。外で飲む時も悟が少しずつ誘ってきて、どんどん増えて行った。もうあれ以来、悟と二人だけで飲むことはなくなった。花火も、皆で来た。寮の人たちはいい人だし、楽しかった。皆でいても、俺は悟と話すことはほとんどなく、前みたいに酔っても絡んでこない。俺たちにとっては自然なことだった。今までと同じだ。俺はどこかで自分にそう言い聞かせていた。

 

会場は割と広くて、地元の人がもうレジャーシートを敷いて場所取りをしていた。

 

松川浦。ここは相馬市の、潟湖(せきこ)だ。潟湖とは、砂によって海から隔たれた湖のこと。完全に隔たれているわけではなく海とつながっているので塩水だ。ここで花火が上がる。岸に観賞スペースが設けられている。有料席もあるがほとんどは自由席。

県外や市外からも多くの人が訪れていた。皆こういうイベントを本当に楽しみにしているのだろう。震災の傷を少しでも忘れるために、やってくるのかもしれない。

 

俺たちは適当な場所を見つけレジャーシートを敷いた。有料席に程近い眺めのいい場所だった。花火大会といっても、大会の中では小規模な方で、数千発の打ち上げだそうだ。

俺たちはふざけあいながらシートを広げた。

「君達。」

そこへやってきたのは、例のスーツの男。俺たちを邪険にしていたあの男だ。

「除染作業員の人だよね?」

皆、下を向いたまま黙ってしまった。男の後ろには運営の人なのか、作業服のような揃いのジャンパーを着て、帽子をかぶった人が数人立っている。辺りを見ると、俺たちを取り囲むかのように人が立ってこっちを見ていた。多分地元の人だ。中に、女将さんもいた。後ろの方で心配そうに見ていた。

「作業員の人は、悪いけど観覧席の外で見てほしいんだ。明日は県の外からも人が来るからね。」

まるで俺たちを説教するかのように、高圧的な態度の男。俺は悟を見た。悟はまっすぐに男を睨んでいた。

「もう、いい加減こんなこと言わせないでくれるかい。」

俺はその言葉に唖然とした。男は当たり前のように続ける。

「悪いね。すぐ片づけてよ。」

俺は思わず声に出してしまった。

「おかしいだろ!」

その瞬間、男は殴られて腰をつく。殴ったのは悟だった。悟は完全にキレてしまっていた。頭に血が上り、目がやばい。

俺は正直、驚いた。今まで素直に従っていた悟。むしろ悟が素直に従うなんて、そっちの方がおかしかった。自分が悪くても食ってかかるくせに、久しぶりに会った悟は素直に従う。違和感を感じていた。今、目の前にいるのが俺の知っている悟で、いつもなら呆れた顔で見ていたかもしれない。店を出て行けと言われても、ガソリンスタンドで窓を拭いてもらえなくても、イベントで自分たちのことは無視してボランティアにだけ感謝の言葉を送っても、文句の一つも言ったことなんかないのに。ここにきて、悟が男を殴った。

周りも唖然としていた。もちろん、男が悪いと思う。他の作業員もそう思っている。周りの地元民にもそう思っている人がいるかもしれない。でも、悟がしたことは行き過ぎた行為だった。

「お前!なんてことするんだ!」

周りの運営の人が、怒鳴ったり文句を言いながらどんどん集まってくる。一緒に来た作業員は戸惑っていた。言いたいことはたくさんあるだろうけど、皆関わりたくないのが本音だろう。

悟は一発男を殴ってから、ただ倒れた男を睨んでいた。拳を握ったまま、何も言わず、ただ睨んで立ち尽くしていた。

 

俺は悟の頬に伝う涙を見た。

 

倒れた男は必死に何か言っている。きっと会社に言いつけるとか、この街で仕事ができないようにしてやるとか、そんなことだったと思う。

俺は悟から眼を逸らすことができなかった。しばらく見つめていたけど、周りに人がどんどん集まってきた。俺は仕方なくシートを片づけ始めながら、悟に声をかけた。

「・・・悟、帰るぞ。」

周りは今でも集団で襲いかかってきそうなほど俺たちに罵声を浴びせてきた。今までたまっていた不満をぶつけてきたという感じだろうか。本当に自分勝手な人たちだ。作業員のみんなは何も言い返すことができないでいた。周りの視線や言葉から逃げるようにシートを畳むのを手伝ってくれた。片づけた後、すぐにその場を去った。悟も付いてきた。周りの人たちは俺たちに声が届かなくなるまで何か言っていた。なんて言っていたのかはあまり覚えていない。きっと作業員の皆にとっては辛い言葉だったと思う。悟もきっとこらえていただろう。俺もすごく不愉快だったけど、何も言わずに去った。

 

寮に着くと早々に解散した。部屋に悟は戻らなかった。俺は部屋で着替えたり、シートをしまったりしていたが、まだ帰ってこなかった。

 

悟が俺を花火大会に誘ってくれた時の、子供みたいな笑顔を思い出した。

 

いつも飲んでいるベンチに悟が腰かけていた。日が暮れて鮮やかな青とオレンジが混ざる空を眺めている悟。

俺は缶ビールを持って悟の横に座った。

「飲むか?」

悟に手渡す。悟は受け取って開けると、飲み始めた。俺も、飲み始めた。二人で飲むのはあの時以来。

「・・・ごめんな。・・・花火、見れなくなってさ。」

いつもより暗い。さすがにへこんでいるみたいだ。俺は除染作業員じゃないけど、さすがに応えた。悟が謝るのはこれで2回目だ。

「いいって。お前のせいじゃないし。」

本当は見たかった。すごく楽しみにしていた。確かに最近、悟との間に距離を感じていたけど、それでも悟が誘ってくれた花火大会が楽しみだった。でも、そんなこと言えない。悟はただ黙って酒を飲んでいた。俺もなんて言葉をかけていいのか分からず、いつもみたいに明るく話すこともできず、ただ飲んでいた。自分の弱さが手に取るように分かるこういう時間は嫌だった。

「この前のこと。」

悟が口を開いた。何となく、何の話か察しがついた。

「・・・怒ってんのか?」

「怒ってない。俺がどうかしてたんだ。」

俺が怒る理由なんてあるわけない。謝らなくちゃいけないくらいだ。本当に悪いことをしたと思っていた。

「ああ・・・そっか。」

悟が少し気まずそうにそう答えた。

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俺は明るく振る舞って、何もかもうまくこなしているように見せるのが得意だ。人当たりもいい。昔から会社に勤めれば一目置かれるし、友達からもよく相談をされるし。頼られることが多かった。

一方、悟はどちらかというと会社では嫌われていた。仕事ができないわけでもないし、特別目立つ行動もしなかったが、話を聞いていないようにも見えるし、愛想もない。メモを取らないとか、わからないことを聞かないとか、そんな小さなことでよく目を付けられ嫌われていた。

だけど、俺は、きっと悟も、本当はそんな自分を望んだことはなかった。

俺は自分に自信なんかなくて、誰かに頼りたかった。さみしかった。上手に生きている俺を期待されていた。悟は悟なりに仕事を一生懸命にやっていたし、慣れない中で打ち解けようと努力しているつもりだったと思う。本当は悟もさみしくて、話を聞いてほしくて、もっと相手のことも聞きたくて。

見せたくても見せられなくて、言いたくても言えなくて、結局わかってもらえないまま、ずるずると人付き合いを続けて行く。さみしいとか悔しいとか、辛いとか。そんな言葉は胸の奥深くにしまって、同時に気持ちもしまい込む。我慢したり、不安から逃げたり、忘れたふりをしてやり過ごす。臆病だった。

 

 

「・・・感謝してる。」

俺なりのお詫びだった。

「いろいろあったからさ、ここにきて、お前が頑張って俺にいろんなことしてくれてるのが、すげー嬉しいし。本当に感謝してる。」

笑って見せた。こんなこと初めて言う。勇気を出したつもりだった。精一杯、悟を励まそうとした。

「・・・だったらさ、ずっとここにいろよ。」

悟は俺を見てそう言った。唐突で少し驚いた。

「え?ああ、まぁ、またそのうち遊びに来るよ。お前もたまには東京にさ・・・。」

俺を見つめる悟の方に、体を向けた。

「そうじゃなくてさ。」

悟は俺の言葉を遮る。

「俺と付き合えばいいじゃん。」

悟はいつもの真顔でそう言うと、少し恥ずかしそうに前を向く。

「・・・え?」

俺は理解できなかった。冗談で言ってるのかと思った。

「俺、お前のこと好きだし。でもお前はまだあいつのこと好きなんだろ?それでもいいからここで俺と付き合えよ。」

「・・・いや、付き合うって・・・なんだよ?」

俺は悟の顔をまじまじと見つめた。

 

悟はこっちを向くと顔を近づけて、俺の唇にキスをした。

 

一瞬の出来事だった。悟はすぐに唇を離し、俺を見つめる。俺は瞬きするのも忘れるくらい頭が真っ白になってしまった。

俺がゲイだって知っているのだろうか。何のつもりなのか、どういうことなのか、何が起きているのか、いろんな疑問が頭の中で溢れて来て、でも何も考えられなかった。どうしていいのか分からなくなって、俺は動けずにいた。

「・・・俺の気持ちだ。」

悟の顔はまだすぐそこにある。いつもより真剣に、少し恥ずかしそうにそう言った。俺は思わず立ち上がり、悟から離れた。

「もう、酒は投げつけるなよ。」

酒を投げつけるつもりなんてもちろんない。でも、俺はやはり動揺してしまった。

「お、お前・・・俺・・・俺はな・・・そんなことしたら、俺は。」

好きになってしまう。それは、俺がずっと恐れてきたことだ。あれからずっと、俺が避けてきたことだ。

「わかってるよ。お前のことなんかちゃんとわかってる。」

俺の言葉を遮って、悟はそう言った。終始、いつもの無表情でぶっきらぼうな口調。それは時々零す本音を言う時の表情。どうすればいいのかわからなくなった。俺が立ち上がり悟から離れたのは、きっと体が拒否しているのだろう。悟は親友だ。だからこそ、今まで以上に怖くなった。そんな自分にも驚いた。いろんな感情が頭の中で渦巻いていた。

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