悟~秋の花火


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8月。

近くの乗客が話しているのが聞こえた。今年の夏は雨が多い。台風が反れずに、ほとんど上陸しているせいだと言う。夏だって言うのに、曇っているか、雨が降っているか。確かに、雨ばかりだった。それに、また台風が来るらしい。気温もぐっと下がるそうだ。俺は新幹線の窓から久しぶりの青空を眺めていた。

 

 

福島県相馬市。

東京から新幹線を使っても4時間かかるこの場所を目指している。福島第一原発から車で1時間ほどしか離れていないこの場所は、2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震で大きな被害を受けた場所の一つである。

あれから5年。街は活気を取り戻し、人々の生活もやっと落ち着きつつあるが、未だに原発からの汚染が残っている。福島第一原発事故の影響で、未だに戻りたくても戻れない人が他の場所での生活を余儀なくされている。相馬市もそんな町の一つだ。人口は1.5倍ほどに増えたが、仕事はそれほど多くない。漁業が盛んだった相馬市は津波の被害でほぼ壊滅。未だ復興の目途が立たない。農業はやっとここ最近になり形を戻しつつあるが、それでも震災前には到底及ばない。

 

相馬市には俺の親友がいる。中西 悟(なかにし さとる)。悟は10個歳上。今年38歳だ。

 

 

相馬市相馬駅。東京から来た俺にとってはずいぶんな田舎で、駅を降りるとだだっ広い駐車場があり、辺りには2階建ての低い建物が並ぶ。人はあまりいない。車も。

 

午後3時頃、駅に着くと悟が車で迎えに来てくれていた。

「よう!」

俺の顔を見るなりニコッと笑い、近づいてきた。よく焼けた肌に、相変わらずの筋肉。昔からスポーツは何でも得意で、趣味はサーフィンにスノーボード。学生の頃はサッカー部だった。俺の元同僚で、親友。

学生の時から柔道をしていて、社会人になってからは総合格闘技をしていた俺の影響で、悟も総合格闘技を始めた。出会ったころは俺より体が細かったのに、だんだん大きくなっていって、今は俺なんか敵わないくらいごつくなっていた。酔っぱらうとよく向かって来ては、投げ飛ばしてやったのに、今じゃもう勝てないだろう。

俺は怪我で格闘技を引退した。悟はきっと、ずっと続けていたのだと思う。悟に会うのは6年ぶり。白いTシャツにジーンズ姿で現れた悟。腕はまるく太くなっていて、胸は張り出している。ジーンズは太ももがパンパンで、真っ黒な肌と、短く整えられた髪。なんだか、前よりも男らしくなっていて、嫉妬してしまいそうなくらいかっこよかった。

「お前の車?」

俺は自然に荷物を手渡す。受け取る悟。

「いや、車借りた。」

悟と出会った職場では俺が先輩。だからお互いタメ口だ。それがより仲良くなりやすかった。

照れ臭そうに荷物を車に運ぶ悟。俺はその姿をまじまじと見つめてしまった。久しぶりの悟の姿がなんだか懐かしくて、嬉しくて、顔がほころんでしまっていたかもしれない。

「元気そうじゃん!」

俺はいつもの明るい調子で言った。

「ん?ああ、まあ。」

悟はそっけなく答える。

「乗れよ。とりあえず俺の寮行こうぜ。」

 

街は思っていたより建物が多くて、人もまばらに出歩いている。でもすぐに木が生い茂る田舎道に入る。退屈そうな町だったけど、それでも暮らすには十分だ。

「どうなの?除染作業員だろ?」

「なんでわかるんだよ?」

「福島で仕事してて寮に住んでるんなら、だいたいそうだろ。」

「ああ、そっか。」

悟は昔からそうだ。そっけない。普段はほとんど話さないし、口下手だ。俺がよく話す方だから、あれはどうだ?だの、これはなんだ?だの何でも聞いて、会話が成立する。

「で、どうなんだよ?楽しいか?」

「別に。楽しくねーよ。」

「でもさ、給料いいんだってな?」

「まあな。」

「いくら?」

こんな感じだ。俺は昔から性格は明るい。いつでも明るく振る舞っていた。自分の長所だと思っているけど、欠点でもあった。人にはそれ以外の部分を見せずにきたから。悟も自分のことはあまり見せなかった。誰かの愚痴や悪口も聞いたことがない。聞かなきゃ何も答えないし、自分のことを周りに話されるのは好きじゃなかった。素直じゃない。でもかっこつけてるわけでもなくて、面倒臭がっているわけでもない。とにかくよくわからなくて、放っておけない、これが第一印象だった。

東京でしか会ったことのない悟が運転している姿はなんだか新鮮で、何度も見てしまっていた。

話は悟の離婚の話題に。

「いつ離婚したんだよ?」

知り合ったころ、ちょうど一人目の子供が生まれる時だった。それなのに悟は毎日合コンやクラブへ遊びに行って、夫婦の中は冷めきっていた。時々悟の家に遊びに行って子供の顔を見たり、奥さんとも一緒にご飯を食べたりしていた。でも、遊ぶ時は大抵外で女の子と飲み会だった。

「どーでもいいだろ、そんなの。」

「凹んでんのか?」

俺はからかうように聞く。

「うるせぇ。」

これが悟の口癖。恥ずかしそうに笑いながら、都合の悪いことや図星を言われると「うるせぇ」と返す。

「お前遊び人だもんな。俺が女だったら絶対付きあわねーわ。」

「うるせぇ。」

悟は恥ずかしそうに笑った。女々しく言い訳しないところがいい。

 

悟が離婚して、福島に来ているのを知ったのは半月前。

悟は俺の連絡先が分からずにいた。色々あって連絡先が変わってしまった俺は誰にも知らせずにいた。当時の友達に久しぶりに会ったときに悟の話になり、俺から連絡した。最初はだれからの連絡か気づいてもらえず、名前を言うとすぐにわかってくれた。東京にいるんだったらすぐにでも会いに行ったけど、福島にいるっていうからなかなか会えなくて、やっと時間ができた。しばらく居ようと思っている。

「養育費とか払ってんの?」

「ああ。」

「そっか、大変だな。」

 

 

しばらくして、寮に着いた。

「車返してくるからちょっと待ってろ。」

そう言うと悟は寮の中へ入っていく。

除染作業員の寮は仮設住宅みたいな質素な造りだ。でも割と新しくて、土地も広く、建物も大きい。

「綺麗なんだな。」

悟は戻ってくると荷物を持ってくれた。

「こっち。」

 

悟がドアを開けると、中にはさらに小さな仮設の建物が並ぶ。そのうちの一つのドアを開けると、悟の部屋がある。

「ここ。」

中へ入ると、光はそれほど差し込まず、窓は一つ。室内のさらに室内なので仕方がない。エアコンが付いていて、後はシングルベッドと小さな冷蔵庫だけ。

「テレビもねーんだ!」

「ああ。」

俺はついつい興奮気味に言ってしまう。

「トイレとかは?」

「共用。後で連れてってやるよ。」

「風呂は?」

「共用。後でな。」

「休みの日何してんの?」

「ああ・・・サーフィンとか?」

「へぇ・・・」

悟が俺の荷物をベッドの上に置いた。

「あのさ・・・俺・・・どこで寝んの?」

「ここ。」

シングルベッド、枕一つ。ガタイのいい大人の男二人には狭すぎる。

「お前はどこで寝んの?」

「ここ。」

「・・・・・・そっか。・・・・・・狭いな、お前んち。」

「うるせぇ。」

悟が笑った。

 

 聞けば、寮は最近作られたものらしい。内装は新しくてきれいだ。外観は仮設住宅。風呂とトイレは共用。大浴場もあって奇麗で広い。洗濯機は無料で使えて、食堂は別の建物にある。朝食と夕食が無料で提供されていて、仕事の休みは自由。朝の集合時間に間に合わなければ休みの扱いになり、日曜以外はすべて出勤しても構わないそうだ。周りに遊ぶところはそれほど多くはなく、大抵の社員は休みの日や仕事終わりは飲み行くかパチンコ。飲み屋もそれほど多くはないが、最近元飲食店の被災者が集まり、飲み屋横丁を作ったらしく、活気を取り戻してきているようだ。作業服はクリーニングしてもらうことができて、会社から全て支給される。靴だけは自費で購入。布団もレンタルしているらしく、給料からレンタル代が引かれる。仕事は8時から17時。男だけの職場で、派閥やいじめはないようだし、仲間とは仲良くやっているらしい。給料が良い分、出稼ぎ労働者多いらしくて、地元の人間はほとんどいないと言う。

思ったより快適なようだ。なんだか安心した。

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俺の名前は、久保 成樹(くぼ なるき)。28歳。男が好きだ。でも悟は知らない。悟と出会ったころ、付き合っている人がいた。8個歳上の男。別れてもう6年。別れてから俺は辛さを紛らわせるために色々手を出した。犯罪みたいな真似はしていないが、生活費はなくなり実家に帰った。その時に使っていたケータイは解約され、悟と連絡が途絶えた。あの頃に比べて俺も悟もずいぶん大人になっていたり、老けたり。当時は22歳。まだ子供だった。色々、辛い時期でもあった。やっと生活も落ち着いてまた東京に出てきた。今は自分で仕事をしている。アフェリエイトだ。先輩がネットビジネスの会社を経営していて、色々教えてくれたのをきっかけに自分で勉強した。今ではなんとか生活できるようになった。ここまで来るのにずいぶん時間はかかったが、俺なりに努力して手に入れた生活だ。贅沢なそれほど出来る訳じゃないが、満足している。

 

あれから、何人かと付き合ったり別れたり。ちゃんと付き合ったって言えるような関係はなくて、今思えば寂しさを紛らわせるためだけだったのかもしれない。

今、彼氏はいないし、そもそも同性愛者が昔から苦手だった俺はそういう友達もいない。そういう街にも出かけたりしない。友達も皆、ストレートの人ばかりだった。

ゲイには短髪が人気だけど、今は髪を伸ばしていた。前髪は目の上くらいまで伸びて、ショートとかミディアムくらいだと思う。20代のうちしかできないと思い髪の毛を茶髪にしている。自分ではそれほど明るくはないと思っているが、人から見るとかなり明るいらしい。悟と知り合ったころは付き合っていた彼氏に気に入られたくて、髪を伸ばせなかった。本当は少し、伸ばしてみたかった。別れた後もゲイにモテるように切っていた。最近になってやっとそんなことを気にしなくなった。やっと。

 

 

「後で食堂連れてってやるよ。飯食おうぜ。明日飲みに連れてってやるよ。」

悟は帰るなりいきなりパンツ一枚になりくつろぎ始めた。

「食堂って俺も使っていいの?」

悟の体は昔よりも筋肉質で綺麗な体だった。昔はとにかく体を大きくするために何でもいっぱい食べていた。筋肉はあったが脂肪もあった。昔から肌が黒い悟はいかつく見える。さらに夏は趣味のサーフィンに行くためもっと黒くなる。

「良いんじゃね?ばれないっしょ。」

俺もシャツを脱いだ。

「お前さ・・・。」

俺がシャツを脱ぐと悟が体を見つめる。

「なんだよ?」

少し嫌そうな顔をして尋ねた。

「何か大人になったな。」

「昔から大人だっつーの。」

俺はそっけなくなってしまう。悟は昔からそうだ。素直だ。こっちが恥ずかしくなるようなことを平気で言う。無神経なのか何も考えていないのか。酔うともっとひどくなる。

俺は楽な格好に着替えた。部屋でたわいもない話をして時間を潰した。それほど盛り上がったわけじゃないが、久しぶりの悟との時間は、何より嬉しかった。お互い色々あったから、なんだか元気そうな顔を見られるのが嬉しかった。誰と連絡取ってるとか、昔こんなやついたよなとか、格闘技をいつ辞めたとか、どんな怪我で引退したとか。俺と悟はそれぞれ別の道場に通っていたから、時々二人で体育館を借りてよく練習した。そんな思い出話をしていた。

 

夜7時になっても外はまだ明るかった。悟は簡単に服を着て俺を連れて食堂に行った。食事は意外とおいしかった。温かい物が食べられたし、おかずも多くて驚いた。悟の言うとおり、俺も食べることができた。食堂に行くと他の作業員もたくさんいて、悟と仲良さそうに話す人もちらほら。新人だと紹介されたけど、ただの友達だと訂正した。それでも社員でもない俺が食堂で食事をしていることを咎める人はいなかった。皆良い人たちだ。夕食後、風呂にも行った。湯船が広くてちょっとした銭湯ぐらいの大きさはあると思う。シャンプーやボディソープは自分で用意するらしく、悟のを借りた。先にあがった俺は、部屋で悟を待っている間、何もすることがなかった。気が付いたら眠っていたようだ。悟のベッドに横になって目を閉じて、その後は覚えていない。

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