青空で光る星~生ぬるい雨


明るい山道は夜とはまるで別世界だ。少し霧がかかり、朝日が昇ろうとしている。空はグレーに染まり、曇っていた。木々が風で揺れる音がかすかに響く。車も人も通らない。動物の鳴き声も聞こえない。静かな朝だった。

 

 

2人は疲れ果て小屋で寄り添っていた。目が覚めたのか黙って見つめ合い、ゆっくりとした時の流れを感じていた。雨が止み服も体も乾き、夏らしい暖かい、山らしい涼しい空気が壊れた窓から入ってきていた。

 

 

外から車の音がした。小屋のそばで止まると、ドアが開く音と同時に足音が近づいてくる。

 

 

2人は外の車の音に気が付いた。不審に思い、そこに投げ捨ててあったパンツを履き、シャツを着た。

ズボンを履く前にドアが開いた。

 

 

  俺には、それくらいしか思いつかなかったんだ。

 

  どこに逃げていいのか、どうすればあいつを守れるのか、俺は子供で、何も知らなかったから。

 

  それくらいしか思いつかなかったんだ。

 

  わかってたのにな。何もうまくいかないって。

 

  でもその時はあいつを守れてるつもりでいた。そのまま、ずーっと守っていくつもりでいたんだ。

 

  その時のことは、よく覚えてない。一瞬だったと思う。

 

  俊太郎の父親は警察官で、外にはパトカーが停まっていた。

 

  服もろくに着ていないあいつの髪の毛を掴み、時々殴りながら車に連れて行った。

 

  多分通報してもだめだと思った。俺達にはどうしようもなくて、あいつも俺も死ぬんじゃないかってくらい殴られて。

 

  はっきり覚えてるのはあいつの叫び声と泣いてる顔。

 

  俺の名前を必死に叫んでた気がする。

 

  俺も・・・あいつの名前を必死に叫んでた。

 

  結局、何もできないまま、目の前からあいつはいなくなった。

 

  俺は、何もできなかった。

 

 

朝日が昇っても空が曇っているせいで何も見えない。霧も晴れたが今度は弱々しく雨が降り出した。

将也の顔は雨に濡れる。雫が顔に落ち、将也は目を覚ます。目の横から血を流し、口も切れている。鼻血も出ている。ズボンもはかず、パンツとシャツだけ。膝はすりむいて土で黒くなっている。

 

 

ゆっくり顔を上げるが、そこには誰もいない。

誰もいない道の向こうを黙って見つめる。

 

そしてゆっくりと立ち上がり、小屋に戻ってズボンを履いた。そして来た道を歩き始める。怪我をした足を引きずって、歩き出す。雨に全身濡れてしまっているが傘もない。

 

 

まだ道の先には何も見えない。車も通らない。まるで果てしなく続いているようだ。カーブも多くて先も見ない。

将也はふと止まる。下を向き、唇を震わせて堪えられず泣いてしまう。しゃがみ込み濡れている地面に尻をつくと、膝を抱え両手に頭を伏せた。肩を震わせる。

生ぬるい雨が将也に降り注ぐ。

 

 

  「お前みたいな腰ぬけは根性叩き直してやる!さっさと立て!弱虫!」

 

  「今日から俺が味方だ!何かあっても守ってやる!話しも聞いてやる!お前を馬鹿にしたりしない!だからもう死ぬ必要なんかない!もしおまえが死んだら、俺はお前を許さない!」

 

  「あははははは!よく言われる!後はな、空が好きだ!ずーっと眺めてられる。さっきだって空を見に行ったんだ。そしたら将矢に会った。」

 

  「俺、こんな賑やかな夕食初めてだから、すげぇ楽しかったし、また来てもいいですか?」

 

  「時間なんて関係ないだろ!俺他に友達いないんだよ!お前と友達になるって決めたんだ!お前じゃなくちゃ嫌なんだからな!だからもう一人じゃないんだからな!」

 

  「俺は友達にそんなこと言われて傷ついたぞ。お前にだけはそんなこと言われたくなかった。」

 

  「俺、喧嘩なんか初めてだ。」

 

  「ははっ、かっこ悪いよな。お前のこと守ってやるとか言っといてさ。俺が一番・・・俺が一番弱いんだ。本当は強いふりしてたけど・・・俺ってかっこ悪いよな。」

 

  「それに、俺は初めからずーっとお前がいいんだ。」

 

  「いいんだよ!だから俺と一緒にいような!ずーっと!」

 

 

将也は顔を上げた。両手で涙を拭く。痛々しい顔の傷から雨に混じった血が少しずつ流れていく。シャツもところどころ赤く染まっている。

将也は鼻をすすり、地面に手をついて立ち上がった。足をかばいながら、一瞬倒れそうになるが堪えて立ち上がる。

しゃきっとした顔で前を向き、再び歩き出した。

 

弱々しく、痛そうに、ゆっくりと、将也はたった一人きりで歩き続ける。

時々零れる涙を拭いて、果てしなく続くように見える道を黙って歩き続けた。

 

 

スマートフォンは画面が割れて電源が入らない。それをポケットにしまい、代わりに小銭を出していくらあるのか確かめる。改札の前で、線路図を見て行き先を確かめる。

 

 

将也の体から、雫がしたたり落ちる。電車の椅子はすっかり濡れている。将也は外の景色を黙って眺めていた。時々客が通ったが、将也の隣には誰も座らない。声をかける人もいない。全身びしょびしょで、顔も手も血と泥で汚れていて、それでも声をかける人はいなかった。

 

まだ何もない田舎の駅。将也は切符を渡し改札を出る。駅員に道を聞いて、再び歩き出す。

 

雨は弱くなっていく。しかし、濡れた靴は泥で汚れ、さらに砂利でボロボロになってしまった。

雨は止んでも、将也の服が乾くこともなく、さらに汗もかいていた。将也の顔は疲れ果て、汚れ、まるで戦争にでも行っていたかのようだった。

 

 

将也は一日食べもせず、飲みもせず、ひたすら歩いた。足が靴擦れで痛くなっても、棒のように固くなっても。

 

 

そして1日かけてやっと自分の町に着くころには夜遅い時間になっていた。

 

この町でも、まるでホームレスのような格好の将也に声をかける人はいなかった。

たった一晩離れただけなのに、まるで違う世界のようだった。

まるで一人ぼっちで世界に放り出されたような、そんな孤独が将也を包み込んでいた。

 

 

そしてやっと道の向こうに自宅が見えた。しかし見えたのは将也の知っている自宅ではなく、夜の街に赤く燃え盛る炎に包まれた自宅の姿だった。

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