青空で光る星 第二部~プロローグ~簾


プロローグ

「あれが・・・多分スバル・・・・・・だから・・・。」

少年が一人、屋上で望遠鏡を覗いている。

周りは広い草原で覆われ、生暖かい風が吹いていた。少し小高くなった丘の上に、まるで取り残されたように建つ小さな家。丸びを帯びていて高級な別荘にも見える。薄い茶色のその建物は絵本から飛び出してきたような欧風な形をしている。窓の形も丸い。

その屋上で少し細身の、あどけない少年が望遠鏡を覗いてぶつぶつと呟いていた。後ろから漏れる部屋の明かりに照らされて、星が輝く空を覗く。刈り上げられた後ろ髪とは対照的に風になびく前髪は眉の上あたりまで伸びていた。白いシャツに黒のハーフパンツを履いて、裸足だ。手には分厚い本を持ち、開いたままだ。それを時折見ては再び望遠鏡を覗く。よく焼けた肌とまだあどけない顔つき。学生らしい細い体つきだ。

「・・・あった!あれが火星かな。じゃあ・・・やっぱりほかの惑星は見えないのか・・・。」

そう言うと大きくため息をついた。

 

その時、部屋の中から開いている窓越しに携帯の音が鳴る。少年は振り向くと部屋に戻り二つに折られた携帯電話を開いた。数センチの液晶に「メール新着1件」と表示されている。

少年はメールを開く。

『どう?連絡来た?』

メールの内容はそれだけだ。送信元に「from友」と書いてある。

少年は慣れない手つきで数字のボタンを連打し、文章を作り始める。

『全然来ない(笑)』

そう打つと送信ボタンを押した。

 

部屋の中はまるで中学生の部屋だ。小さな机に教科書が並び、その隣には大きなブラウン管のパソコン。その横にそれより大きなブラウン管テレビとゲーム。向かいにはベッドと漫画が散乱していた。

少年はおもむろにパソコンの電源を入れる。ゆっくりとついたその画面、少年はパソコンの前にあるチェアーに座り、画面を見ながら左右に回っている。しばらくするとデスクトップが表示された。インターネットのアイコンをクリックし、文字を入れて検索する。出てきたのはゲイ向けの掲示板サイトだ。

開くと、投稿が表示される。

『友達、メル友募集』

その表示が一番上に出てきた。

「まだ一番上だ。やっぱこんな田舎じゃ来るわけないか。」

 

「簾!ご飯よ!」

部屋の向こうから女性の声が響く。

「はーい!」

返事をすると携帯を閉じてポケットにしまい、部屋を出た。

 

 

青空で光る星 2

 

「やっぱ60ミリじゃきれいに見えないんだ。80ミリ買うからちょっと小遣いくんない?お願い!」

簾はテーブルに座り食事をしながら母親にせがむ。母親は長い髪を後ろにまとめ、白のタイトなシャツを着ている。スタイルがよく艶やかでシャープな顔立ちだ。よく日焼けしていて両耳にはピアス、腕にブレスレット、左手の薬指にはリングが光り、とても母親には見えない。

「あのねー、あんたもう大学卒業したら社会人になるんだから!そしたら自分で買いなさい!」

「かわいい息子が出ていくかもしんないんだからさー、最後のお願い!」

「あたしが女手一つ、あんたにどんだけ貢いだと思ってんのよ。だーめ!卒業したら携帯代も自分で払うのよ。今度は私が貢いでもらうんだから。」

母親はその話し方も若々しい。

「それより簾、東京の会社も受けてるんでしょ?東京行ったら彼氏の一人でも作んなさいよ?」

「え?なんだよいきなり、まだ就職するかどうかも決まってねーのに。作っても美奈子には紹介しねーよ。」

「空ばっかり見上げてないで少しは筋トレするとか、おしゃれな服着るとかさー。モテないわよー。ゲイはマッチョが好きなんだから。」

「なんでそんなこと知ってんだよ?」

「孫が見れないんだからせめて彼氏くらい紹介してよねー。あんたの彼氏と腕組んでショッピングに連れて行ってもらうのが私の夢。」

そう言うと美奈子は微笑んで片手を頬に置いた。

「絶対やだね!美奈子と俺の彼氏が組んだら俺の立場なさそう。」

「あははは!そうねー。それもありよねー。」

簾は美奈子を睨むと茶碗に入ったご飯を口いっぱいに入れた。そのタイミングでポケットの携帯が鳴る。

「簾、ご飯の時に携帯はダメよ。」

「もう食べ終わった!」

口に入れたまま、簾は立ち上がり空の茶碗を見せた。そして一目散に階段を駆け上がり自分の部屋に行ってしまった。

「自分で片付けなさいよ!」

美奈子の言うことも聞かずに。

 

美奈子は嬉しそうに笑うと窓際の棚を見る。そこには男性の写真が飾ってある。写真の前には位牌と開いていないビールの缶、指輪が置いてある。缶は汗をかいている。出したばかりのようだ。

「あの子携帯で誰と連絡してるのかしらねー。」

写真に話しかけるようにつぶやく美奈子。そして再び食べ始める。

 

 

海の音が聞こえる。空は晴れていて、風も少ない。

簾は涼しそうな格好で朝食を食べる。

「なんて言ったっけ?」

美奈子はキッチンで洗い物をしている。

「マシューって言うんだ。みんなマットって呼んでる。尚明ん家だから昼飯いらないから。」

「マットくんねー。あんた会ったの?」

「今日初めて会うんだよ。」

「英会話に通わせたかいがあったわ。」

「美奈子もさ英語くらい話せないと。」

「私は良いの。」

微笑む美奈子。

「はぁ、ご馳走様!」

「あ!また!片付けなさい!」

美奈子の言うことも聞かずに飛び出してしまった。

 

 

自転車に乗って坂道を下る簾。鞄をかごに入れ、風を切る。簾の家は丘の上にあり、横はすぐ崖になっている。周りには草原が広がり、何もない。降りた先に広がるのはきれいな浜辺と青い海。そして、小さな町だ。

 

 

その夜、簾はメールを打つ。

『俺、好きな人ができたんだ』

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