空はとても晴れていて、風が心地よく吹いている。日差しは強く体に汗をかかせるが、そこへ風が吹いてきて気持ちがいい。
簾は花火を見た海辺に来ていた。波の音と風の音、他には何も聞こえない。
堤防の上に座り、ただ景色を眺めていた。ここは空も海も見える。
『結局、告白できなかったんだ。』
『そっか。いつ帰国するの?』
『もう帰ったよ。見送ってきた。もしかして、なんとなくわかってた?』
『少し(笑)』
『だよね(笑)少し考えればわかることだったんだ。マットがゲイかどうかもわからない。付き合えたとしても国が違うんだもん。俺ってバカだよな。一人でウキウキしちゃってさ。』
『そんなことない。幸せそうだった。本当に好きだったんだな。』
『そうだね。』
『だけど違うんだろ?本当はどうして告白しなかったの?』
『友君て俺のことわかってるよね(笑)』
『友達だろ。』
『怖くなったんだ。急に。あの日、本当に楽しかったから。すごく幸せでさ。告白したら壊れる気がして言えなかった。』
『そっか。わかるよ、その気持ち。』
『こんなに好きだったなんて、思ってもいなかった。俺は弱虫だな。』
『誰かを好きになると、人は弱くなる。嫌になるだろ?自分のこと。』
『本当に。』
『でもまた自分を好きになれる。簾は良いやつだから。』
雲一つない空を眺めて、簾は大きくため息をついた。そして唇をかみしめると、小さく微笑んだ。また空を眺めて、笑った。
『俺、東京に行くよ。友君に会いたいよ。』
「本当にこんなところで働いて大丈夫なの?」
簾は2丁目に来ていた。前に来たクラブの前で雄造といる。
「だってさ、会社の給料じゃとてもじゃないけど暮らせないよな。東京ってなんでこんなにいろいろ高いんだよ。」
「まあな。てか、ここで働いたらダンサー紹介してよ?」
「あははは、いいよ!いくらでも!バイト紹介してくれたお礼。」
「よっしゃ!会社には言ってあるの?」
「うん!バイトOKだって!仕事に影響ないなら大丈夫!」
「そっか!面接頑張れよ!」
「うん!行ってくる!ありがと!」
そう言って、店の中へ入って行った。
「槙野簾君?」
店の中は以前来た時と違ってがらんとしている。まだ営業前だ。端にある席で面接をする簾。面接しているのは若い男性だ。細身で髪の毛も目に前髪がかかるくらいの長髪。足が長く、見せつけるように組んでいる。
「私副店長です。今年から社会人?かわいい顔してるわね。」
副店長と名乗る男は感じがいい。
「え?あ、ありがとうございます。」
慣れない誉め言葉に戸惑う簾。
「じゃあいつから働ける?」
「今日からでも!」
簾は元気に返事をした。
「じゃあ、さっそくお願いしようかしら。もう少ししたら開店だから、一緒に準備手伝ってくれる?店長とか他のメンバーはそのうち紹介するから。」
「え?採用ですか?」
あっけないやり取りに驚く簾。
「もちろんよ!かわいい子は歓迎!」
副店長はニコッと笑う。
「はぁはぁはぁ・・・かわいい子は歓迎とか言って・・・掃除かよ・・・。」
簾は階段を上がっている。階段の奥には扉がある。簾は息を切らしながら扉を開けた。一気に眩しい光が差し込む。屋上だ。
簾は外へ出るとあたりを見回した。随分いろんなものが置かれている。小さな小屋みたいなものや、タイヤが詰まれていたり、使わなくなったと思われるロッカー。工具箱や筋トレグッズなど、店の外見とは違って散らかっている。
「確か小屋の中にあるって言ってたっけな。大体なんで掃除道具が屋上なんだよ・・・。」
簾はぶつぶつ言いながら小屋の方へ向かった。扉は鍵もなく入ることができる。
「すげー埃っぽいなー。掃除道具をしまうところを掃除しないとダメだろ。」
簾は随分大きな声でずっと文句を言っていた。
手にモップを数本、塵取りとバケツ、中にはぞうきんを入れ再び外に出る。随分量が多く大変そうだ。
「ああー・・・いい天気だけど・・・暑いなー、東京は。」
そう言って空を見る。
ふと人影に気が付いた。屋上の隅っこに座っている男がいる。ビルの外に足を放り出し、ただ座っていた。よく見ると空を見上げているようだ。
「え?!嘘だろ?」
簾はその姿に驚く。手に持っていた掃除道具を地面に置いて駆け寄った。
「ちょっと!」
簾はその人物に声をかける。声をかけるというよりは思わず叫んでしまった。
すると男が振り向いた。簾はその顔を見て固まってしまう。あまりに整った顔立ちと、服の上からでもわかるほどの筋肉。良く焼けた肌と、短く整えられた髪型。男は簾をじっと見つめる。
「何?」
低い声でぶっきらぼうに返事をする男。その返事に簾は我に返る。
「そ・・・そこで何してるんですか?!」
「何って、別に何も。」
動揺する簾に対し、男は淡々と答えた。
「え?・・・何も?」
「ああ。」
「・・・・・・あの、あ、そうなんだ。あはは・・・てっきり飛び降りようとしてるのかなって・・・あははは。」
簾は笑ってごまかすしかない。
「新人?」
そんな簾に男は表情一つ変えず質問する。しかし、簾は男の顔を直視することができない。
「あ、はい。簾って言います。槙野簾です。」
顔を赤らめ恥ずかしそうに答える。
「それ本名?」
「え?はい、そうです。」
「俺は将矢。津々見将矢。」
簾は不愛想な男が自分の名前を教えてくれたことに驚き、男の顔を見た。そして、改めてまじまじと見つめる。
簾はすっかり男に見惚れていた。
その夜、簾はメールを打つ。
『友君、俺さ、東京に来たばっかりだけど、俺恋したかも・・・。』
見つめ合う二人の上には、雲一つない青空が広がっている。
つづく
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