青空で光る星 第二部~好きな人


『友達、メル友募集』

タイトルのその下に簾は本文を入れる。

『まだこっちの友達いないんで、募集してます。近かったら会ったりも。離島からです。』

簾はデスクのライトだけが付いた薄暗い部屋で、ブラウン管に向かって真剣な顔つきでキーボードを打っていた。

「んー、なんて書けばいいのかよくわかんないなー。」

画面には派手な色使いで作られた簡素なホームページが写っている。

「これでいいや。」

掲示板は地方によって分かれているようだ。上部には関東、関西、東北など地域それぞれの掲示板へのリンクが貼られていた。簾が開いているのは九州のページ。

簾は『書き込む』というボタンを押す。

 

 

『はじめまして。東京に住んでる友です。』

 

『はじめまして!簾です!』

 

『これ、なんて読むの?』

 

『れんです!友って何て読めばいいのかな?』

 

『ともでもゆうでも、好きに呼んでよ。会えない距離だけどダメかな?』

 

『ダメじゃないよ(笑)友達が欲しかったから。じゃあともくん。ともくんは恋人とかいるの?』

 

 

「はぁ・・・返事来ないや。俺なんか言ったかなぁ・・・。」

 

星空を見上げてため息をつく簾。

 

 

「ピンポーン」

簾は玄関でチャイムを鳴らしていた。

「はーい!」

中から出てきたのはショートヘアの女の人だ。背が低くて少しぽっちゃりしている。動きやすそうなゆったりとしたワンピースを着ている。

「こんちは!」

簾は元気よく挨拶をすると女性はニコッと笑う。

「待ってたわよー。」

簾は手に持っているビニール袋を差し出した。

「これ美奈子から紗綾に渡してって。野菜とビール。」

「えー!気が利くわー、さすが美奈子。上がって、今尚明呼ぶから。」

「はーい。」

特に気を遣う様子もなく簾は家へ上がる。

 

 

『返事できなくてごめん。恋人はいない。』

 

『あ!2週間ぶり(笑)急に返事来なくなったらもうだめなのかと思ってたよ。良かった。俺なんか言っちゃった?』

 

『いや、ごめん。何も言ってないよ。心配せちゃって。これからはちゃんと返す。』

 

『無理しないで、何かあるなら言ってよ。まだメールでやり取りしただけだけど友達だし!』

 

『ありがとう。』

 

『ていうか、俺自己紹介とかしてないから何も知らないよね。友くんのこと教えてよ。』

 

 

「おう!簾!」

リビングで待つ簾に声をかけてきたのは簾よりも一回り大きな体の尚明。タンクトップにハーフパンツ。良く焼けた肌に筋肉質な太い腕が目立つ。刈り上げられた髪に耳に開いたピアス。南国の少年らしい見た目だ。

「おはよ!」

簾も元気に返す。

「今日は庭でバーベキューだぞ!マットが先に準備してるんだ。早く来いよ。」

「うん。」

そう言うと2人は庭へ出た。

 

庭には眩しく強い陽射しが差し込んでいる。蝉の声が響く。

庭へ出た簾に駆け寄ってきたのは大きな犬だ。ゴールデンレトリーバーが簾を押し倒すくらいの勢いで駆け寄ってきた。

「いちのすけー!」

名前を呼んで迎え入れる簾。顔めがけて飛び込んでくるいちのすけを抱きしめて全身を撫でまわす。興奮したいちのすけが顔を舐めていた。

「マット!」

尚明がそう叫ぶと、奥からマットが現れた。

「コンニチハ!」

すこし不慣れな日本語で、簾に挨拶するマット。簾はいちのすけを撫でながらマットを見た。

その瞬間、いちのすけを撫でる手が止まり、笑顔が消え、瞬きをするのも忘れ、簾はマットを見つめて動かなくなってしまった。

 

 

『自己紹介か・・・何を書けばいいのかな。こういうの初めてで。』

 

『じゃあ、俺から。俺は鹿児島県の種子島って言う島に住んでます。父さんは小さい頃に死んじゃって、今は母さんと二人暮らし。両親は二人とも東京出身。だから標準語(笑)今は大学生で、俺は昔から空が好きだから、大学でも宇宙とか星のことを勉強してる。今は夏休みで、友達と遊びながら就職活動。そういえば東京の会社にも履歴書送ってるんだ。』

 

『なんかすごいな。』

 

『すごい?そうかな(笑)ありがとう。友君のこと話してよ。』

 

『俺は4年位前に東京に来たんだ。ダンスやってて、こっちの友達は全然いない。恋人もいない。今は簾とのメールだけだ。』

 

『俺も全然出会いがなくて。初めて掲示板ていうの使ってみた。』

 

『恋人とかほしくて掲示板書き込んだの?』

 

『まあ、それもある(笑)でも友達募集だよ。こっちの人と知り合うことないし、知り合い作りたかったんだ。』

 

『そっか。』

 

『友君は恋人募集中?』

 

『いや、俺モテないから。俺も誰かとのつながりが欲しかったんだ。』

 

『ダンスやってるからかっこよさそうなのに。』

 

『ダンスは好きだ。嫌なこと忘れられるから。』

 

『嫌なことって?』

 

『ごめん(笑)まあ、いろいろ!掲示板に載せてるなら他にも来るかもな。』

 

『期待して待ってみるよ(笑)』

 

 

「マット!」

尚明はマットの肩をポンと叩いて簾に紹介した。

「マット、こちら簾!」

次は簾を紹介する。

「よろしく!日本語はあんまり得意じゃないけどこれから勉強するよ。」

マットは流ちょうな英語で返した。

180くらいの身長に、上だけ長く横はしっかりしたスキンフェードで整えられたグレーの髪型。グレーの瞳とノースリーブから見える凹凸のしっかりした腕と大きく膨らんだ胸。大きな唇に掘りの深い顔つき。まるでモデルが飛び出てきたかのような男だ。

「簾?」

マットを見つめて動かない簾に尚明が不思議に思い名前を呼んだ。

「・・・あ、あぁ、よろしく!」

簾は思わず日本語で返す。

「お前英語できるよな?」

「ああ、できる!」

「火の準備できてるよ!」

マットはそう言うと奥へ行く。

「来いよ!」

尚明もついていく。

 

その夜、簾はメールを打つ。

『俺、好きな人ができたんだ』

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