『マットって言うんだ。オーストラリアからの留学生。俺の友達がこの前までオーストラリアのマットの家にホームステイしてて、今度はマットが日本に来たんだ。』
『へぇー、オーストラリアね。俺海外行ったことないな。』
『俺もない(笑)せっかく英語勉強してるのに、まだ行ったことない(笑)』
『実は俺も英語の勉強してる。行く予定はないけど。』
『あ、共通点(笑)』
『そうだね。マットとは毎日会ってるの?』
『うん。ほぼ毎日。田舎だから何もすることないけど、海で遊んだり、サッカーしたり。クリケットって言うオーストラリアのスポーツ教えてもらったり。』
マットと尚明がビーチでサッカーボールを蹴ってはしゃいでいる。水着ではしゃぐ2人。体格がいい。特にマットは白い肌が程よく日焼けして、筋肉がより一層目立つ。じんわりと汗をかいた肌がセクシーに見える。
それを日陰から眺めている簾。マットをじっと見つめ、切なそうにため息をついた。
やがて2人は簾の元へやってくる。尚明は簾の横に置いてある水筒を手に取るとふたを開けて水分補給をする。
簾はマットから目を逸らし、足元のペットボトルを手に取りふたを開けて飲み始めた。ふとマットが手を出してきた。簾が見上げると、汗で濡れたマットが笑っている。簾は手に持っていたペットボトルを差し出す。マットは躊躇することなくさっきまで簾が口をつけていたペットボトルに口をつけ飲んだ。
「ちょっと水浴びてくる!」
尚明はそう言うと海へ走って行った。マットはそれを眺めながら簾の隣に座った。簾にペットボトルを返す。簾はペットボトルを受け取るとそれをしばらく見つめてしまう。
日陰には涼しい風が吹いている。波が高くならない程度の程よい風だ。
「オーストラリアみたいなビーチだね。」
マットが英語で話しかけてくる。
「え?ああ、うん、きれいだろ。日本は楽しい?」
簾も英語で返す。
「すごく楽しいよ。尚明のお母さんは料理も上手だ。今度簾の家にも遊びに行きたいな。」
「え?うち?」
「だめ?」
「いやぁ・・・はは・・・もちろん、いいよ。」
照れくさそうな簾。
「楽しみにしてるよ。」
マットは遠慮することも人見知りすることもなく話す。
「マットはさ・・・その・・・恋人とかいるの?」
簾は苦笑いしながらうつむき気味にして尋ねた。
「恋人?いや、いないよ。オーストラリアにも日本にも。簾は?」
「え?俺?いないよ。」
簾は顔を赤くする。
「俺は付き合うなら簾みたいな人がいい。」
「え?俺?!なんで?」
簾はマットの方を振り向く。さらに顔を赤らめて少し焦っているようだ。
「優しいから。」
マットは簾のほうを向いて言う。躊躇することなくあっさり答えた。
簾の顔がどんどん赤くなる。
「あはははは!簾照れてるね。」
マットは簾のその顔を見て笑い出した。
簾は焦って正面を向いた。
「いやいや!照れてないって!」
むきになる簾。
「簾はモテると思うよ。優しい男はモテるから。」
「・・・はぁ、マットはわかってないな。」
簾は肩を落とした。
「わかってない?」
「俺はモテないの!マットみたいに顔もカッコよくないし、体も細いし。」
「大丈夫!体なんて鍛えればどうにでもなる!簾の顔はカッコいいよ。俺は好きだ。」
そう言うとマットは立ち上がり海に向かって走り出した。
その後姿を簾は見つめていた。
『筋トレしようかなと思って。やっぱり筋肉合った方がモテるよね?』
『まあ、そうだね。筋肉ある人が好かれやすいかもね。』
『友くんは筋肉あるの?』
『どうかな、俺はダンスやってるだけで筋トレとかしてないし。』
『マットが俺の顔好きだって。』
『なんかいい感じ?』
『外国人てさ、恥ずかしいこと平気で言うんだよ。めっちゃ顔近づけてさ。』
『確かにそんなイメージかも(笑)どんどん好きになっていくね。』
『うん(笑)毎日楽しい。友くん、最近恋したのいつ?』
『しばらくしてないな。』
『そうなんだ。友君も恋できるといいね。』
『簾は優しいな。でもいいんだ、俺には恋人なんてできないから。』
「簾!今日も紗綾の家行くんでしょ?」
美奈子が2階へ叫ぶ。
「ああ、午後から!」
「え?午前中家にいるの?」
「いや、筋トレしに行く!」
「私買い物行くからね!」
「はーい。」
そう言うと美奈子はキッチンに向かい鞄を持った。キッチンに雑に並べられたプロテインを見る。大きな袋が邪魔そうに並んでいる。
「ついに目覚めたみたいよ。」
窓際の夫の写真に向かって話しかける美奈子。
「ピンポーン」
その時家のチャイムが鳴った。
部屋でジャージを鞄に詰める簾。
「あ、上靴!」
そう言って部屋を見渡す。ベッドの脇にある靴を見て手に取ろうとしたとき下から美奈子の声がした。
「簾!マットくん来てるわよー!」
簾は焦った様子で振り向いた。
「え?!」
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