「実は高いところが苦手だったんだ。」
上半身裸のマットと簾。橋のふちに座って足を海側に放り出している。シャツは横に干されており、雫が地面にしたたり落ちていた。
「そうなの?何でもできそうなのに。」
「できないよ。簾のほうが何でもできる。」
「俺はできないことだらけだよ。俺も小さい頃は苦手でさ、今は平気だけど、小さい頃はもっと高く見えた。」
「小さい子にとっては大きな試練だね。」
「そうだろ?でも勇気を出して飛び込んだんだ。そしたら楽しかった。鼻から水が入っていたかったし、怖かったけど。それから、勇気を出して踏み出すことが楽しいってわかったんだ。あはは、大げさか!」
簾は笑ってごまかす。
「いや、そんなことない。僕は日本に来てわからないことだらけだし、新しいことだらけだ。来る前は正直怖かったし来たくなかったんだ。」
「え?そうなの?」
「あはは、うん。でも来てみると楽しいことだらけだった。本当に簾の言う通りだよ。少し勇気を出せば、何でもできそうな気がする。」
簾はマットの顔を見て嬉しそうに笑った。
「再来週、お祭りがあるんだ。マット行くだろ?」
「簾、一緒に行こうよ。」
「尚明と3人で行こうよ。」
「尚明はなんだっけ?あの、ほら、みんなでなんかやるって。」
「ああ、神輿だ。毎年やるんだ、あいつ。」
「だから2人で行こう。」
簾はまた顔を赤らめる。
「ふ、2人?!」
「だめ?」
「え、いや、いいよ!行こう!」
明らかに嬉しそうだ。
「良かった。」
マットは無邪気に笑って見せる。
それを見て簾も微笑んだ。少し沈黙が流れた後、マットが簾を押す。
「うわっ!」
簾の叫び声のすぐ後、水しぶきが飛ぶ。
「ぶはっ!」
水面から顔を出す簾。
「おい!マット!」
マットに向かって叫ぶと笑っているマットが目に映る。そして、マットは大声を上げ飛び込んできた。
静かな海辺に二人の笑い声が響く。
『祭り?』
『そう、毎年あるんだけど、実はマットと2人で行くことになってて。そこで告白しようかなって。』
『楽しそうだな。』
『うん!ドキドキする(笑)成功すると思う?』
『どうかな、うまくいくことを願ってるよ。』
『あ、そういえば、来週東京に行くんだ。』
『東京に?』
『そう!東京の会社で面接するんだ。昨日書類選考の結果が来てさ。もちろん泊りで行くんだけど、会えないかな。』
『おめでとう!じゃあ、会う?』
『やった!やっと会えるね。』
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