青空で光る星 第二部~2丁目


鳴り響く電車や車、大きな音楽を流しながら派手な装飾を身にまとった宣伝車。まるでお祭りでもやっているかのようなたくさんの人。

まるで簾の田舎とは別の世界かのような大都市。

簾は大きなリュックを背負ってその光景に圧倒されていた。

「・・・どうしよう・・・。」

簾は思い出したようにポケットから名刺を出す。

「まずはホテルに行かなくちゃ。」

 

簾は交番や駅で道を聞いて、少しびくびくしながら人込みを窮屈そうに進む。

電車の中では外の景色をじっと眺め、狭い道ではホームレスにびくびくしながら足早に通る。ネオンが光る道ではスーツを着た金髪の男にお店に誘われてしまう。苦笑いしながらなんとかやり過ごすと、今度は片言の日本語を話す女性に手を引っ張られ無理やり店に連れ込まれそうになる。

ホテルに着くころにはくたくたになっていて、もう日も暮れていた。

ホテルは小さなビジネスホテルだ。

「はぁ、やっと着いた・・・。」

 

 

「まるでジャングル探検だよ。なんだよこの街、俺のいる島とは全然違う。美奈子東京にいたんだから連れてきてくれればよかったのに。」

ホテルの部屋で部屋着に着替えながら電話をする簾。

『せっかくなんだから一人旅楽しみなさいよ。いい男もいっぱいいるだろうし。』

美奈子が電話越しに笑っているのが分かる。

「こんな街に息子一人送って罪悪感とかないわけ?俺が変なおじさんに誘拐されたらどうすんの?」

『男なんだから自分の身は自分で守れるでしょ?それにおじさんだけじゃないかもよ?』

「変なこと言うなよ!明日は面接だからもう寝る!」

『あははは!はいはい、面接頑張るのよ!それからお酒はダメよ!』

 

電話を切ると簾は小さなベッドに横になった。

「はぁ・・・。」

大きくため息をつくと少し考えている。そして、メールを打ち始めた。

 

『2丁目ってどんな街なのかな?』

 

 

小さく輝くネオンと、散らかった道路。裸の男のポスターが至る所に貼られていて、太ってて髭の生えた大柄の男や、タンクトップからたくましい腕を出して歩く男。酔いのまわった声の大きな女性や、今どきの若者も何人かいる。

どこを見ても入りづらいお店ばかりだが、道端に座ってたむろしている人も多い。まるで昼間のように騒いでいる。

この街では、きっと夜のほうが賑わうのだろう。

 

簾はそんな道の端を、物珍し気に辺りを見まわしながら歩いていた。

 

『もう東京に来たんだね。2丁目行ってみたいの?』

 

『てか、もういる(笑)』

 

『変な人も多いから気を付けて。』

 

『変な人って?』

 

『なんていうのかな、まあ、大丈夫か。』

 

『友君、2丁目来れないの?会おうよ。』

 

『うん。』

 

『どっかで待ち合わせする?』

 

簾は携帯を見る。人通りの多い道の端でメールを待っていた。返信を待ちきれず、メールを打つ。

『どこかで待ってればいい?』

 

それから数分、返事は来ない。すると、一人の男の人が声をかけてきた。

「一人?」

「え?」

振り向くと、そこにいたのは20代半ばくらいの男。身長は簾と同じくらいだが肉付きがよく、筋肉質。ツーブロックで体のラインがくっきり見える小さめのTシャツを着ている。清潔感があって、顔もきれいだ。

「あ、いや、待ち合わせで。」

簾は視線が定まらず不安げに答える。動揺を隠せなかった。

「そっか、友達?」

「え?ああ、まあ。」

苦笑いする簾。

「かわいいから、声かけちゃった。友達来るまで話しててもいい?」

「・・・あの・・・話だけなら。」

 

 

『ごめん。仕事は入っちゃって。今日は会えないんだ。』

 

簾はメールを見ると携帯を閉じた。

「お待たせしましたぁ。」

体の細い男の子が簾の前にグラスを置いた。

「結局友達来なかったね。」

簾の隣に座る男。さっきまでいた路上とは違い、店の中は落ち着いている。おしゃれな照明が店内を照らし、少し薄暗い。店員はなぜか全員タンクトップで下着姿だ。席はほぼ満席で、中には一人で来ている人もいるようだ。ここには男しかいない。

「あのー・・・。」

簾は明らかに動揺している。

「大丈夫、ただのウーロン茶だよ。」

男は何かわからないがお酒を手に持っている。

「あ、どうも。お金払います。」

簾は人見知りする。

「いいよ。ジュースくらいおごらせてよ。」

「え?ああ、どうも。」

 

 

『急に誘ったし、気にしないでよ。あの後、男の人に声かけられてさ。』

 

『ナンパされたの?何もなかった?』

 

『何もなかったよ(笑)友君の言う変な人が少しわかった気がする。』

 

『よかった。無責任だったよな。ごめん。』

 

『謝ることないよ(笑)大丈夫!雄造っていう人で、33歳だって(笑)どう見ても20代だったけど。いい人だったよ。』

 

『じゃあ出会いがあったわけだ。』

 

『出会いか。そうだね、こういう出会いは初めてだけど、まあ友達にはなれたと思う。』

 

 

「え?!だって!そんなわけないでしょ?!マジで?」

簾は店の中で大きな声を出していた。体を乗り出して雄造に顔を近づける。

「そんなに驚く?あははは!」

「え?ああ、驚きすぎ?いや、だってさ・・・。」

「簾はうぶだな。ゲイってみんなセックスから入るのがわりと普通。ハッテンバでの出会いも多いし、ネット使う人は大体ヤリ目だよ。簾、2丁目で突っ立ってたからサポ待ってるのかと思ったし。」

「じゃあ、何?俺が1万円って言ったらお金出してやろうとしてたの?」

「あははは!まあね。」

「あっぶねー!もうしないよな?」

そう言うと雄造は簾に顔を思いきり近づけてきた。

「どーしよーかなー?」

すると簾は思い切り嫌そうな顔をする。

「あははは!そんな顔されたら俺だって傷つくわ!何もしないよ。2丁目始めて来たうぶな少年を俺が汚すわけにはいかないしな。」

「はぁ・・・。」

「でも気をつけろ、一人で2丁目来るなんて危ないんだぞ。」

「そうなんだ、やっぱり友君の言う通りだ。」

「友君?彼氏?」

「彼氏じゃないよ!メル友。東京にいるんだ。まだ会ったことないけど。」

「へー、メル友流行ってるみたいだもんな。実際どうなの?友達として?」

「どうって?」

「だって会えないわけだろ?何かあっても駆けつけてくれるわけでもないし、その地元にいる外国人が好きなら、恋愛に発展するわけでもない。一緒に遊んだりもできないだろ。」

「ああ、確かに・・・。」

 

 

『簾に友達ができたならよかったよ。』

 

『あのさ、俺たちって友達?』

 

『そう思う。どうしたの?急に。』

 

『なんかメル友って今まで友君一人しかいないから、メールするだけが本当に友達なのかって雄造に言われてさ。考えたことなかった。』

 

『そうだな。メールするだけなんてそんな友達いないかもな。』

 

『ごめん、めんどくさいよね(笑)』

 

『簾とのメールでめんどくさいなんて思ったことないよ。』

 

『俺は同じゲイの友達が欲しくて。友君は初めての友達だから、何でも話せるし、正直になれる。』

 

『俺もだよ。簾は俺にとっては大事なつながりだから。俺には他につながりがないんだ。』

 

 

「せっかく東京来たんだ!今日は俺が2丁目を案内してやる!行くぞ!」

雄造は簾の肩をパンと叩くと席を立つ。

 

 

「ここ?」

連れてこられたのは随分大きなビルだ。

「今一番流行ってるクラブ。」

ビルの前には多くの人だかり。

「ここで一番人気のダンサーがいるんだよ。マジでイケメン!」

「ダンサー?」

「そ。簾かわいいから彼氏候補探し。」

雄造はにやりと笑う。そして簾の肩を抱くとクラブへ入って行く。

 

クラブの名前は「flower」だ。

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