「あぁー!」
簾は家の屋上で背伸びをする。空はよく晴れていて、風もない。
「面接も終わったし!今夜かぁ・・・。」
清々しい顔をして、まっすぐに空を見つめる。眩しそうに目を細めた。
『いよいよ、今夜だな。』
『うん、緊張する!友君応援しててね!』
『もちろん。がんばれ!』
『どのタイミングがいいのかな?』
『二人で祭り楽しむんだろ?花火とか、なんかイベントはないの?』
『花火あがるよ。鹿児島本島からもたくさん人が来る。』
『祭りか。全然行ってないな。東京の祭りは人がすごいから。』
『今度おいでよ。って言っても東京の祭りとは少し違うかも。こっちは皆が広い場所に集まって料理を持ち寄ったり、炭をおこしてバーベキューしたり。出店もあるけどね。神社に灯篭を飾るんだ。』
『へぇ。きれいだろうな。行ってみたいよ。』
『案内するよ。じゃあ、やっぱり花火の時がいいかな?』
『まあ、やっぱり花火の時がいいかもな。気持ちも盛り上がってるだろうし。』
『わかった!』
「簾!私お祭りの手伝い行ってくるから!夕方になったらマットくん迎えに行ってよね!」
下から声が聞こえる。簾は屋上の端に行き下を見た。美奈子が両手に大荷物を抱えて簾に叫んでた。
「ああ!おっけー!」
「あんたも祭り楽しんだら紗綾の家に来なさいよ!7時よ!」
「はーい!」
美奈子は車に荷物を載せると行ってしまう。
「さ!準備するか!」
もうすぐ昼が過ぎる。
日が傾き始る。まだ日差しは熱いままだ。
簾はグレーの甚兵衛を着て、尚明の家の前で自転車を止めた。小さなリュックを背負い、草履を履いている。そして、家に着くと不安そうな顔をした。
「ふぅ・・・。」
口を膨らませて大きく息を吐いた。そしてベルを鳴らす。
「ハーイ!オマチクダサイ!」
中からマットの拙い日本語が聞こえた。その声に簾の鼓動は少し早くなっていった。
「やあ!簾!待ってたよ!」
マットはドアを開けると簾を見ていきなり抱き着いてきた。
「うわ!」
簾はつい声を上げてしまう。
マットは白い甚兵衛を着ている。生地がよく、少し高そうだ。身長も肩幅もあるマットは甚兵衛がよく似合う。
「どうかな?似合うかな?」
マットは玄関に立ち手を広げてその姿を簾に見せた。
「簾に一番に見てほしくて!まだ誰にも見せてないんだ!」
マットはまるで子供のようにはしゃいでいる。
「え?あ・・・いや・・・その。」
簾はマットの言葉と、その姿に顔を赤らめてしまい、目を逸らす。
「あのー・・・だめかな?なんか着方間違ってるかな?」
マットが急に不安そうな顔をした。その表情に簾は気が付いた。
「い!いや!似合ってる!すごく!すごくいいよ!」
簾は動揺を悟られないよう笑ってごまかした。その言葉を聞いて嬉しそうなマット。
「じゃあ、行こう!」
マットは簾のそばまで来るとニコッと笑いそう言った。簾はその顔に見惚れてしまっていた。
空が少しずつ暗くなっていき、空はきれいなオレンジ色に染まる。神社に着くと明かりがきれいに光り、人この声も増えてくる。子供たちがはしゃぎまわり、みんなが久しぶりの再会を喜ぶ声が響き、出店の呼び込みの声も賑やかに飛び交っている。
「日本のお祭りは初めてなんだ!」
マットは目を輝かせ、興奮気味だ。
「あははは、子供みたいだな。」
簾はそんなマットを見て笑ってしまう。
「遊び方教えてよ!」
子供の様にせがむマット。
「よし!じゃあ遊ぶか!」
少しずつ日が沈み、空の青が濃くなっていく。やがて出店や神社の明かりがどんどん眩しくなっていく。
2人は、少年そのままに楽しんだ。まるで普通のカップルの様だ。どこにでもいる友達同士なのに、自然にじゃれ合い触れ合った。笑いが絶えず、どこへ行っても新鮮で、小さなことが大きく感じた。
時間はゆっくりと流れていく。風も気持ちがいい。東京で見たあのネオンのように、神社の通りが輝いていて、どこを見ても色とりどり鮮やかに彩っている。小さく流れてくる音楽や、賑やかな笑い声。それよりも2人の耳に残るお互いの笑い声。そして、目に映る笑顔。耳に、目に、記憶に焼き付ける。周りにはたくさん人がいて、みんな大きな声で話しているはずなのに、聞こえるのは相手の声だけ。いるのは相手だけ。2人は2人だけの世界にいた。毎年同じお祭りなのに、もちろん特別だった。何もかも忘れて、ただ楽しんだ。きっとどこにでもいそうな外国人と、日本の文化を教える日本人。少年2人がただ祭りを楽しんでいるだけ。しかし、それは紛れもなくかけがえのない時間だった。
完璧で、幸せな、2人だけの時間だった。
やがて夜が来る。
One thought on “青空で光る星 第二部~祭り”