青空で光る星 第二部~花火


神社の前に神輿を担ぐ集団が来る。褌を履いて祭りの法被を着ている。おでこにはハチマキが巻かれ、威勢のいい声を上げながらリズミカルに神輿を担ぐ。

簾とマットは神輿を担ぐ尚明を見つける。

「尚明ー!」

簾が叫んで手を振る。尚明は汗だくになりながら肩で神輿を担ぎ、険しい顔をしながら声を荒げていた。

簾は横にいるマットを見る。嬉しそうな顔で尚明を見つめるマット。

「日本のお祭りはすごい。とても美しい。」

子供みたいな顔でしみじみと言うマット。その横顔を見て、簾も嬉しそうに笑う。

 

 

波の音が静かに響いている。神輿の掛け声もなくなり、人もまばらだ。

「他の人はどこに行ったの?」

マットは不思議そうに尋ねた。

「皆もう親戚とか自分の家でご飯を食べてるよ。家族と過ごすんだ。家からでも花火は見えるから。」

「ああ、そうか。僕たちはいかないの?」

「俺たちはここで花火を見てから行こうよ。きっと今頃尚明ん家で準備してるか、もしかすると先に始めてるかも。」

「そっか。」

「ここは花火が一番きれいに見えるんだ。一番大きく。」

簾は空を見上げる。

「簾、嬉しそうだね。」

簾はマットのほうを見た。マットは簾を見つめ微笑んでいた。簾は顔を赤らめる。視線を思わずそらしてしまう。

「ああ、いや・・・嬉しいっていうか。」

「簾はいつも空を見てる。」

「え?そうかな?」

「うん、いつも空を見上げてる。空、好きなの?」

簾は思ってもいなかった自分の癖に初めて気が付いた。少し照れ臭そうだ。

「うん。好きなんだ。昔から空が好き。空って言うか、星が。」

「この前言ってた星はどれ?」

「この前?」

「一番明るい星。」

簾は嬉しそうににやける。

「一等星?そうだな・・・ほら、あそこに強く光る星があるだろ?あれが一等星。」

「へぇ。きれいだ。」

「うん。でも俺は、夜でも見えないような小さな星が好きだ。」

「どうして?」

「誰にも気づかれずに、目立ちもしない弱い光なのに、そういう光がたくさん集まってきれいな空を作る。本当によく見ないとわからないくらい小さな光でも、こんなにきれいな空を作ることができる。そう思うと何だか小さな自分でも何かできるって思える。あはは!俺なんかまだ何もできないけどね!」

簾は笑ってごまかす。それをマットは笑いもせずに微笑みながら見ていた。

 

「日本に来て、一番良かったことは簾に出会えたことだ。」

マットは空を見る。そしてしみじみとそう言った。

簾は顔から笑顔を消して、マットを見る。素直な顔をして空を見上げているマットの横顔が簾のすぐ横にあった。

「・・・あの・・・。」

簾の声は弱々しく、隣にいるマットにさえ聞こえていないようだ。

「・・・あ、あのさ!」

簾はついに意を決して声を張り上げた。マットは簾の顔を見る。

2人は見つめ合う。

 

 

「あの!俺・・・。」

大きな音と共に、急に目の前が明るくなった。2人は正面を向く。

 

 

2人の目の前に、空いっぱいに広がる火花。白く輝くその火花は一気に広がり、下へ落ちながら消えていく。流れ星が空一面に流れるように。さっきまで暗かった海に、花火が反射して、2人の視界いっぱいに広がる。

簾は喉まで出ていた言葉をすっかり忘れ、この世のものとは思えない光景をただ見つめていた。

何の言葉もなく、その美しさに圧倒されてしまっていた。

 

最初に上がった大きな白い花火を皮切りに、どんどんと打ちあがる花火。その美しさは一向に変わらない。2人の顔を、花火が上がるたびに花火と同じ色に染めていく。大きな音と、眩しい光が何度も繰り返された。

 

簾はゆっくりと隣を見る。マットはまっすぐに空を見上げていた。瞬きもせず、まっすぐに。マットの顔に花火の光が写る。そして、その瞳にも。

簾はその横顔をただ黙って見つめる。

 

そして、気が付いた。

 

視線をゆっくりと落とし、何かを悟ったように小さく息を吐きながら微笑んだ。そして再び、ゆっくりと空を見上げた。その表情は、今まで見せなかったほどに苦しそうだ。自分を落ち着かせるかのように、小さくため息をつく。そして、瞳はいつもよりも光っていた。

 

 

花火が二人の影を作る。

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