青空で光る星 第三部~告白


「はぁ・・・なんでベッド1つなんだよ。絶対仕組まれてると思うんだよな。」

簾は部屋の中でダブルベットの前に立っていた。手に握ったコンドームを見つめる。

「・・・どうしよ。」

そう呟きながら顔が赤くなっていく。さらに、簾の下半身の浴衣がどんどん膨らんでいく。簾は自分の下半身を見る。深く息を吸い込んで、唾を飲んだ。

「ガチャ」

その時、部屋の鍵が開く音がした。

「うわっ!」

簾は慌ててベットの前で座る。腰を折り膝を抱えた。さらに顔が赤くなる。

「何してんだ?」

入って来たのは将也。黒いTシャツにハーフパンツ。ラフな格好だ。ベッドの前の床に座り込んでいる簾を見て立ち止まる。

「え?いやぁ・・・ひ・・・広い部屋だよね!こういうホテル初めてだからさ、なんか興奮しちゃって・・・あ、いやいや、興奮ていうか・・・そうじゃなくて。なんていうのかな、その・・・あ、おいしかったよね、夕食!どうだった?」

簾は将也のほうを見る。しかしそこには将也はもういない。

「あれ?」

将也は浴室にいるようだ。簾は大きなため息をつく。再び自分の下半身を確認するがまだ立てそうにないようだ。

「トントントン」

今度はドアがノックされる音が聞こえる。簾はドアのほうを見る。立ち上がりたいが立ち上がれず、自分の股間とドアを交互に見ながら焦っている。

「トントン」

さらにドアがノックされる。そこへ浴室から将也が顔を出す。

「出ねぇの?」

「いや・・・どうしようかなー・・・。」

簾は笑ってごまかす。

将也は怪しげな目で簾を見ながら浴室から出てきてドアを開けた。

「あ、将也君!簾いるかな?」

「どうぞ。」

入って来たのは雄造だ。

「よう!・・・何してるんだよ?」

雄造は不思議そうな顔で見る。一方将也は浴室へ入るとすぐに出てきてドアのほうへ向かっていった。

「あれ?将也君どっか行くの?」

雄造が尋ねる。

「ジムに。」

手にはタオルを持っている。

「じゃあ俺と2人きりだな!簾!」

雄造はあからさまに嬉しそうな顔をする。その様子を少しの間将也は見ていたが、すぐに何も言わずに出て行ってしまった。

「ゆっくり鍛えておいでー!」

出ていく将也にそう叫ぶ雄造。

 

「ちょっと!何言ってんだよ!」

簾は慌てている。

「あははは!大丈夫だって!何もしないよ!少し焼餅焼かせただけだろ。」

雄造は簾の向かいのベッドに座る。

「ていうかダブルベッドかよ。」

「俺が予約したわけじゃないんだよー。」

「それよりお前何?その態勢?」

「いや・・・これは・・・。」

「へへーん。」

雄造が不敵に笑う。

「いいか?俺が今から襲うからできるだけ大きい声を出すんだぞ。」

簾の顔を見てそう言うといきなり廉の上に飛びかかってきた。

「うわっ!ちょっと!」

簾は後ろに倒れ声を上げる。雄造は簾の上に跨り、先ほど同様不敵に笑っている。

「何してんだよ?!」

「もっと大声だ!」

そう言うと簾の横腹を手でくすぐり始めた。

「ちょっ!あーーーー!あはははは!」

簾は大声を上げたかと思うと、それよりも大きな声で笑い始めた。

「何だよ!どういうことだよ!あはははは!」

「ガチャ」

すると、ドアが開く音がした。雄造が手を止めドアのほうを見る。そして簾も見た。そこには将也の姿が。

「あっ・・・。」

簾は気まずそうな顔をする。入って来た将也もその光景を見て固まる。ベッドのすぐ前で寝転がる簾の上に雄造が馬乗りになり、さっきまで声を上げて楽しそうに笑っていたのだ。将也の頭の中は簾に簡単に想像できた。

「・・・悪い。」

将也は視線を逸らしそう呟くと足早に部屋を出て行ってしまう。

「あ!ちょっと!これは違うんだって!」

簾は慌てて否定するが将也に聞こえる間もなくドアが閉まった。

「最悪だ・・・。」

簾はそう呟くと雄造を睨んだ。

「もう!何やってるんだよ!」

そう言って雄造を突き飛ばし、体を起こす。

「あれ?うまくいくと思ったんだけどな。」

「上手くいくって何が?」

簾は怒っている。口調がきつくなる。

「ガチャ」

その時再びドアが開いた。簾と雄造はドアを見る。そこにいるのは将也だ。部屋に入らず外からこっちを見ている。簾は想定外の出来事に言葉が出ない。

「簾・・・その・・・簾、借りていいかな?」

将也は少し恥ずかしそうにそうたどたどしく聞いた。

「いいよ。」

雄造はニヤッと微笑むと一言返事をする。

簾は状況が分からず困惑している。

「行けよ。」

そんな簾に雄造が声をかける。

「あ・・・うん。」

簾は不審そうな顔をしながらも考えながらゆっくり立ち上がり、部屋を出て行った。

「はぁ、手間のかかる奴らだな。」

雄造は2人を見送ると腕を組んで呆れ果てる。

 

 

ホテルのプールサイド。もう誰もいない。プールがライトで奇麗に照らされ、簾と将也の顔に水面が反射する。後ろに見えるホテルの明かりも美しい。風があるせいで、都会の夏よりも涼しく感じる。耳を澄ませばかすかに波の音が聞こえる。

プール横のベンチに腰掛ける2人。簾は時々ちらっと将也の横顔を見つめるが、それ以上言葉を口にすることもなくただ黙っている。将也のほうも、プールを見つめただ黙っていた。

気まずい空気が流れている。

「あの・・・。」

簾は小さな声で気まずそうに口を開く。

「さっきのは・・・違うんだ。」

将也は簾のほうを向く。怒っているようにも見えるその顔に簾は少し怯え視線を逸らす。唾を飲んで話を続ける。

「雄造がさ・・・いきなり上に乗っかってきて、くすぐられただけ。・・・それだけ。」

将也は再び正面を向いた。

「どうでもいい。」

どこからどう見ても不機嫌そうだ。その言葉に簾は苛立ちを感じた。将也の横画を見る。

「じゃあなんで連れ出したの?」

「・・・。」

将也は何も答えない。簾はどこか言い切れない怒りを感じ始める。

「俺のこと連れ出したのって雄造とじゃれてる姿を見て焼餅焼いたんじゃないの?」

「違う。」

将也も苛立ち始める。簾は抑えきれなくなり立ち上がる。将也のほうを見て怒鳴り始めた。

「俺のことどう思ってるんだよ!俺の気持ち知ってるくせに!答える気がないくせにこんなことしたり、今日だって俺のこと誘ったりさ!答えろよ!俺のことどう思ってるんだ!」

その言葉に黙っていた将也が立ち上がる。簾の目の前まで顔を近づけた。

2人の顔がやっと向き合う。その瞬間、簾の顔から怒りが消えた。目の前に将也の顔が来て一瞬我を忘れる。その顔を見て、将也も同様戸惑った表情を見せた。お互いに、その表情の変化に気が付く。勢いよく立った将也も、さっきまで怒鳴っていた簾も黙って見つめ合う。

 

「・・・・・・好きだ。」

 

簾は将也のかをまっすぐ見つめ、そう呟いた。将也は簾の瞳をまっすぐに見つめ、やがてその瞳から一滴の涙を流す。

将也は簾に背中を向けた。

 

「無理だ。」

 

そう言うと、背中越しに涙を拭うのが分かる。

「なんで・・・なんでダメなの?どんな傷があるんだ?何から逃げてるんだ?俺が守るよ!俺が将也君の傷だって治して見せる!話してよ!」

「むかつくんだよ!」

将也が急に怒鳴る。振り返り簾の胸ぐらを掴むと瞳に涙を溜めて、そう怒鳴った。簾の胸に苦しさと痛みが走る。

「お前には無理だ!何も守れない!弱くて情けなくて何もできない!お前のことなんか好きじゃない!もう俺にまとわりつくのはやめろ。・・・うんざりなんだよ。」

だんだんと言葉が弱くなる。

「・・・・・・・・・わかった。」

簾はそう返事をする。その言葉に力はなく、吐息と一緒に、微かにこぼれた。無表情のまま、ただそう呟いた。全身の力も抜けて、手がだらんと垂れ下がった。

将也はその様子を見て我に返る。簾の胸元を掴む手から力が抜けていく。

 

簾も、将也も、静かに涙を流す。一滴だけ。瞳に溜まっていた涙が耐えきれず素早く頬を伝った。

 

将也はゆっくりと手を離すと逃げるように去っていく。

簾は崩れ落ちるようにさっきまで座っていたベンチに腰を落とした。肩を落とし、ただ無表情でプールを見つめる。顔には水面が反射している。頬を伝った涙の後を照らしていた。

簾の胸は、まだ痛いままだ。

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