青空で光る星 第三部~青空で光る星


夜、雨は止んで辺りは静かだ。

「あんたも帰ってよかったのに。」

人工的な蛍光灯の光に照らされて、病院の廊下で椅子に座るケイコ。隣には簾の姿。

「いや、なんか放っておけなくて。」

「今日明日休むだけなんだから。」

病院の中は静かだ。

「将也君もう寝てます?」

「ぐっすりね。」

「ケイコママ寝なくていいんですか?」

「適当に寝るわよ。あんたホテル取ってあげるから休みなさいよ。」

「いや、大丈夫ですよ。なんか・・・そばに居たくて。」

「あんたそう言えばフラれたんですってね。」

さっきまで心ここにあらずな顔をしていたケイコだが、急にいつもの意地悪顔に戻る。

「あぁ・・・はい。」

簾は笑ってごまかす。

「俺は弱くて情けなくて・・・何もできないって言われました。なんか今日の将也君見たら、俺なんかどれだけ釣り合わないか突き付けられた気がして。なんだか抱えてるものが大きいんだなって。」

「はぁ。」

ケイコが大きなため息をつく。

「違うのよ。」

「違う?」

「自分に言ってるの。」

「自分にって?」

「弱いのも情けないのも何もできないのも、自分のことなのよ。少なくとも将也はそう思ってる。」

「・・・自分のこと・・・。」

「あの子はね、自分のことが許せないのよ。レイコも、将也も。ずーっと自分のことが許せないの。はぁ・・・不器用なのよ。2人ともね。」

「・・・何があったんですか?」

「直接聞いてみたら?」

「教えてくれませんよ・・・。」

「そんなことないわよ。きっとあの子、あんたのこと・・・。」

「何ですか?」

「何でもないわ。自分で聞きなさい。じゃあたし夜食買ってくるから。」

そう言うとケイコは立ち上がり行ってしまう。

 

 

昨日とは打って変わって空はよく晴れている。心地よく風が吹いている。

 

病院の屋上、簾はドアを開けて出る。お店の屋上とは違い広い。外は静かだ。

端の塀に座っている男がいる。将也だ。病院の寝間着を着ている。

 

簾は将也の近くまで来る。将也は黙ってただ空を見上げている。端の上に座り足を外に投げ出し手を後ろについていた。

簾はなんて言葉をかけていいのかわからず、ただ後姿を見つめている。

しかし小さくため息をついて諦めたような清々しい表情になった。そして端まで行くと手を付いてゆっくりと体を持ち上げ片足をまたぐ。ちらっと下を見て怪訝そうな顔をするともう片方の足も投げ出した。将也と同じ格好をするが、少し腰を深くかけた。

 

将也は隣を見る。簾は怖がりながら下を見ては不安そうにしている。しかし何か話始めることは無く、黙って隣に座っている。

 

将也は前を向くといつもとは違う静かな優しい口調で話し始めた。

 

「高校の時、好きな奴がいた。」

 

簾は少し驚いたような顔で将也を見るがその話に耳を傾けた。

 

「変わったやつで、いつも明るくて、いつも笑ってた。」

 

将也は少し微笑む。

 

「まっすぐで、優しくて、空が好きで。・・・俺は、死ぬことばっかり考えてて・・・俺の親、小さい頃に2人とも死んでたから。・・・誰も引き取り手がいなくて、孤児院に預けられたんだけど、オッサン2人が経営する居酒屋で。しかもオッサン2人ともオカマでさ。」

 

笑って見せる将也。

 

「周りにはいろいろ言われるし、学校ではいじめられるし・・・だから死ぬことしか考えてなかった。・・・・・・学校の屋上で飛び降りようとしてる所に現れたのが、俺の好きになった人。突然現れて、いきなり喧嘩売られて・・・いきなり泣かされた。名前は、俊太郎。・・・俺が初めて好きになった人だ。」

 

将也はそのまま話をつづけた。

俊太郎との出会いから、将也の兄の話。

俊太郎は最初、将也の兄に恋をして、自分が焼きもちを焼いて、その時に気持ちに気が付いたこと。

ある日学校に来ない俊太郎が痣を作ってお店に現れてから、ボクシングを習い始めたこと。

そしたら一緒になって俊太郎も一緒に練習するようになったこと。

弟は生意気な奴で、でもゲームを取り上げるとめちゃくちゃ怒って、ボクシングのトレーニング中にぼこぼこにされたこと。

トレーニングから帰ってくると俊太郎がうずくまって助けを求めてきて、一緒に俊太郎と逃げたこと。

俊太郎と過ごしたぼろい小屋の中で告白して、初めて裸で抱き合ったこと。

俊太郎の父親が連れ戻しに来た時、記憶が飛ぶほど殴られて、ただ連れていかれる俊太郎を呼びながら何もできなかったこと。

歩いて家に帰ると家が火事で、誰のことも助けることができなかったこと。

自分だけが助かって、兄も弟も、そして俊太郎も死なせてしまったこと。

自分が無力で幼かったこと。

 

時々懐かしむように笑いながら、時々苦しそうな表情を見せながら、時々、涙を浮かべながら。

その話を、簾はただ黙って聞いていた。

ほんの1時間くらい。長く感じた。ただ、黙って聞いていた。

最後の結末を聞いて、簾は愕然としていた。自分が思っていた以上に壮絶な話で、何を言ってあげればいいかわからなくなっていた。

 

「俺は、もう誰とも繋がりたくないって思ってた。だから、言い寄られても冷たい態度で、誰とも繋がらないようにしていた。でもどこかで繋がりを求めてたんだと思う。簾、お前に謝らなくちゃな。」

「え?」

「これ。」

そう言って渡してきたのは携帯電話。二つ折りの携帯電話が開かれていて、メールの画面が写っている。簾が受け取って中を見ると、そこには簾からのメールがあった。

「これ・・・友君?どうして将也君が?・・・将也君が友君?!」

「ああ。」

簾は唖然としている。

「お前と初めて出会った日に、それがお前だって気が付いたよ。お前とメールしてると楽しかった。誰かと繋がってるみたいで嬉しかった。それに、お前はあいつにそっくりで、時々同じようなこと言うしさ。」

将也は嬉しそうに笑う。

「だから・・・お前とは付き合えない。俺が好きなのは多分まだあいつなんだ。それに俺には・・・誰かと付き合う資格なんてないから。だからメールも返さなくなったし、お前にも冷たくした。悪かったな。」

簾は少し考える。

「俺のほうこそ、ごめん。何も知らずに・・・その・・・いろいろ言ってさ。」

将也は簾を見た。

「わかったよ。将也君の気持ち。でも・・・そっか。もう出会ってたんだね。俺と将也君。」

簾は恥ずかしそうに将也を見る。将也はその言葉を聞いて、どこか嬉しそうに微笑んだ。そして再び空を見上げる。

「ああ。」

 

 

「3年ぶり?4年ぶり?」

「5年ぶりだ。」

「そんなに経つの?」

「ああ。遅くなった。」

墓標には遠田 俊太郎の文字。花を添える将也。泉は線香に火を付けている。

やがて2人は手を合わせる。

「弟とお兄ちゃんにも会いに行ってよね。」

「・・・ああ。」

将也はしみじみと墓を見つめ返事をした。

 

「懐かしいでしょ?」

泉と将也は田舎道を歩く。ゆっくりと景色を眺めながら。

「随分変わった。」

「昔の家も、確かコンビニになったって。」

「そうか。」

「変わっていくの、皆。」

「ああ。」

「まー君も変わったね。」

「ああ、そうだな。」

「昔はうるさかったのにさ。こんなにいい男になって。」

「いい男ってなんだよ。」

「あんたは興味ないだろうけど、モテてるのよー。」

「お前だんだんケイコに似て来たよな。」

「嘘?まだまだ若いんだけど。」

将也は微笑む。

「どうだ?仕事。」

「毎日筋トレしてる。女性消防員は舐められないのが大事なの。」

「そうか。」

「まー君はどうするの?」

「どうするって?」

「これから。」

「・・・俺は・・・わからない。」

「わからない?」

「ああ。ずっと何も追いかけずにいたから。目標をどうやって見つければいいのかわからない。」

「・・・私はね、強くなりたかった。叫ぶだけで誰のことも救えなかった自分が許せなかったから。だから消防士になった。それが私の罪滅ぼし。」

「お前に罪なんかない。」

「そう簡単には割り切れないわ。わかるでしょ?」

「・・・知らなった、そんな風に思ってたのか。」

「みんなそれぞれ思ってるんだよ。でもいいの。これで私は自分を許せそうな気がする。そう思った。」

「・・・許せたか?」

「まだわからない。でも何か見つけられるって信じてる。」

「そうか。」

「まー君。」

泉は立ち止まる。将也は数歩進んで、泉が立ち止まったことに気が付き振り返った。

「もう自分のこと、許してあげて。私よりも、誰よりも自分を責め続けて来たんだから。もういいんだよ。幸せになって。」

将也はじっと泉を見つめる。そして少し考えている。

「・・・生意気言うな。妹の癖に。」

そう言うと前を向いて歩き始める。泉は嬉しそうに笑った。

 

 

「ねぇ。簾いつまで休みー?」

フロアでかずひとが掃除をしている。

「今日来るはずよ。初めての里帰りなんだからゆっくりさせてあげなさい。」

カウンターでケイコが伝票を整理している。

「もう!掃除なんてやりたくないー!」

だるそうにモップをかけるかずひと。カウンターではレイコが酒を飲んでいる。

 

そこへドアの音を鳴らしながら将也が入って来た。手には大きなキャリーケースと、背中にリュック。

「あら、もう出るの?」

ケイコが声をかける。

「ああ。」

「空港まで見送りに行ったのに。」

「いいよ。そう言うの苦手だから。」

「将也君元気でね。」

かずひとも声をかける。

「ああ。お前も。」

かずひととケイコはレイコのほうを見た。いつものように不機嫌に酒を飲んでいる。2人の視線に気が付き将也もレイコを見た。

「いじけてんのよ。」

ケイコが聞こえないように囁く。

「じゃあ、俺行くわ。」

将也は視線を逸らし、挨拶する。

「気を付けなさい。何かあったらすぐ連絡するのよ。」

「ああ。」

将也はドアへ向かう。しかし、ドアの前で立ち止まると振り返った。

「・・・あんまり飲みすぎるな。」

レイコに一言声をかけた。レイコのグラスを握りしめる手に自然と力が入る。

「・・・ふんっ。」

何も返さず再び酒を口にするレイコ。将也はそのまま出て行ってしまった。

 

 

夜、街は賑やかになる。あちこちで賑やかな声や酔っ払いの声が響く。

簾は店の屋上のドアを開ける。将也の姿はないことを確認する。いつも将也が座っている端を見て寂しそうな顔をしている。

 

「あの、今日将也君お休みですっけ?」

フロアでケイコに尋ねる簾。

「将也ならもう辞めたわ。」

「え?!辞めた?!」

「そうよ。」

「そんなの聞いてないですよ!」

「誰にも言わずに行ったのよ。」

「私は知ってた!」

かずひとが自慢げに簾の隣で呟く。簾は困惑している。

「そんな・・・。」

ケイコは残念そうに簾を見る。

「こればっかりは諦めるしかないわね。」

簾は黙って下を向いてしまう。

「あんた!」

お店に怒号が響く。全員が肩を震わせ驚いた。叫んだのはレイコだ。黙ってカウンターで酒を飲んでいたが急に叫び簾を呼んだ。

「・・・はい?」

「来なさい!」

そう言うとすごい勢いで簾の手を握り外へ連れ出した。凄い力で簾は抵抗する間もなく連れ出されてしまう。

 

「ちょっ!ちょっと!」

簾はあまりにも早い足取りに付いていくのがやっとだ。歩道で立ち止まったレイコは手を上げてタクシーを呼び止めた。そして簾の手を離す。

「まだ出発まで時間があるから行きなさい!」

「・・・え?」

簾はよくわかっていない。

「追いかけなさいよ!」

「・・・え?!だけど・・・俺。」

「あんたこのままでいいの?」

レイコは瞳に涙を溜めて急に感傷的になる。

「あの子がこんなに人好きになることなんてもうないんだから!言いたいこと言って伝えたいこと伝えるのよ!」

「でも・・・俺。」

「あたしはあの子から何もかも奪ったのよ!親ぶって引き取ったくせに何もしてやれないのよ!」

レイコは涙を流す。

「だって・・・こんなことしかできないじゃない!これくらいしかできないじゃない!もう散々失くしてきたんだから!私のせいで失くしてきたんだから!他に何もできないのよ!だからあんたが行きなさい!あの子を幸せにしなさい!乗って!」

レイコは簾の体を無理やりタクシーに押し込め、運転手に行き先を告げるとお金を渡し、簾を見送った。

レイコはタクシーが見えなくなるとお店に戻る。マスカラの落ちたレイコを見て、ケイコは小さくため息をつき、グラスに酒を注いでカウンターに差し出す。そして自分のグラスにも注ぎ、笑顔でレイコを誘った。その様子を見てレイコは肩を震わせ静かに泣き出す。

 

簾はどこへ行くかもわからないまま、タクシーの後ろからレイコを見ていた。

「あの・・・どこへ向かうんですか?」

簾は運転手に聞く。

「成田空港にと言われましたが。」

「成田空港・・・。」

簾は何かを思い出す。

「あ、もしかしてアメリカ?!」

 

タクシーが空港に到着する。入り口で降りて簾はその建物を見上げた。

タクシーが去っていく。簾はそこから動かない。じっと入り口を見つめ、考えている。

やがて簾は歩き始める。ゆっくりと。戸惑いながら、ゆっくりと一歩一歩進む。

そしてその足は少しずつ速くなっていく。どんどん早足になり、やがて地面を蹴るように走り始める。広い空港をひたすら走り回り、将也を探す。人が多く、どこを見てもそれらしい人はいない。見つけたと思って腕を掴むと違う人。そんなことが頻繁に起こる。そのたびに簾は深く頭を下げてまた走り始める。

簾はいつの間にか頬に涙を流し始めた。焦りと不安と、そして何より将也がいなくなる恐怖がこみ上げてきて、涙を流していた。それでも走り続けた。あてもなく、見つかるはずもないとどこかで分かっていながらも。必死に涙を拭いながら走ることをやめなかった。息を切らして肩を揺らし、一人一人を必死に確認しながら諦めなかった。どこへ行っても周りには変な目で見られた。それでも続ける簾。

 

しかし、たくさんの人に広すぎる空港では一人の人間を見つけられるわけもなく、簾はついに力尽きてその場に膝をつく。

肩を大きく上下させ、必死に呼吸をする。汗か涙もわからない雫が顔じゅうに滴る。

 

 

もう諦めようと思った。きっと会えるわけがないと思った。ここまで来て諦めるしかないと思った。もうこれ以上探しても無駄だと。

 

簾の頭をよぎったのは、将也との思い出だ。

いつも屋上で見た背中。病院の屋上で見た笑顔。しかし思い出されるのは背中と横顔。それだけだった。少ない思い出に簾は空しくなる。鼻をすすり、涙を堪える。

 

「こんな少ない思い出じゃ・・・まだ諦められない。」

 

小さくそう呟くと、体を起こす。重たく汗だくの体を起こし、膝をついたまま喉がつぶれるくらい大声で叫んだ。

 

 

「将也―――――!!!」

 

 

ただ、そう叫んだ。何度も何度も。涙を流しながら。シャツも汗で濡れてしまい、髪もぐちゃぐちゃだ。目も晴れて、鼻水を垂らしている。人込みの中で、声をガラガラにして全身を使って叫んだ。

周りの人が簾を見る。驚きと困惑と敵意に満ちた視線が簾に注がれる。そんなことは簾にもわかっていた。しかし、続ける。何度も続ける。

恥ずかしさよりも会いたい気持ちのほうが強かったから。

 

周りにいるスタッフが電話や無線機で話している。そのうち警備員が飛んでくるだろう。

「おい!」

簾は後ろから腕を掴まれる。振り返ると、そこに居たのは将也だ。警備員よりも先に簾を捕まえる。

「あっ・・・・・・。」

簾はその顔を見た瞬間固まるが、すぐにボロボロと涙を流し将也に抱きつこうとした。

「今すぐ泣き止め。」

しかし、将也は簾の胸ぐらを掴むと簾の顔を一気に引き寄せ、いつもの怖い顔と低い声でそう呟いた。

簾は正気に戻り、強張った顔をすると、必死に涙を堪え、鼻をすすり開けっ放しだった口を閉じる。目を見開き泣き顔を戻そうとしている。なんとも間抜けな顔だ。

 

 

屋上。滑走路が見えるテラスに来た2人。ベンチに座る。

将也は簾の顔を見た。目をはらし、まだ鼻水が垂れようとしている。

「はぁ。」

将也は大きくため息をついた。

「お前に何も言わず出てきたのは悪かったが、こんなことするとはな。」

すっかり呆れている。

「ごべん・・・。」

簾は鼻声で謝った。

「・・・アメリカ行くんだ。自分の夢に挑戦しようと思ってな。」

「うん・・・。」

「・・・・・・お前のおかげだ。」

「え?」

「・・・ありがとう。」

「・・・うん。」

「・・・じゃあ、もう行くわ。」

将也が立ち上がった。

「こっから飛行機見えるからさ。せっかく来たんだから見送って行けよ。お前だけだ。見送りは。」

将也は去ろうとしたその時、簾も立ち上がる。

「嫌だ!」

簾は今までのように自信のない声ではなく、はっきりと叫んだ。

「え?」

「・・・その・・・俺は・・・。」

しかしすぐにいつもの簾に戻ってしまう。

「俺だって、英語話せる!学生の時、一応海外のロケット会社でも働けるように、勉強してたんだ!留学には行けなかったけど・・・でも話せる!」

将也は簾をじっと見つめる。

「向こうで働くのって、多分大変だろうけど・・・でも俺若いし!なんにでもなれる!ダンスでもいいし!」

「ダンス?」

「・・・うん・・・ダンス!教えてよ!」

「あははははは!」

将也が爆笑している。

「お前は空のほうが似合ってる。」

「それだ。」

簾は微笑んだ。

「え?」

「俺は将也君の笑顔が見たいんだ。悲しそうな顔とか苦しそうな顔はたくさん見て来た。笑ってる顔が見たくてずっと頑張って来たんだ!だから・・・そばで見たい・・・。」

将也は簾をじっと見ていた。簾は恥ずかしそうに下を向く。

「お前ってかっこ悪いよな。」

将也は再びベンチに腰掛けた。

「え?」

「聞き返すなよ、めんどくせーな。」

「あ・・・ごめん。」

簾は落ち込みながら、将也の隣に腰かけた。わかりやすく下を向いている。

 

「じゃあ・・・来るか?」

 

「・・・・・・え?」

簾は顔を上げて将也を見た。将也もその視線に気が付き簾を見る。

じっと2人は見つめ合う。

 

「・・・・・・うん。」

 

簾が返事をすると将也は顔を寄せて、簾にキスをした。

 

 

晴れたアパートの屋上。古びたボロアパートだ。将也は大きな望遠鏡を覗く。その隣には簾がいる。

「ほんとに見えるのか?こんなに晴れてるのに。」

「見えるはず!あるんだから!でもこれで見えるかな・・・頑張れば見えるはず!」

「頑張らなきゃいけないのかよ。」

「そりゃそうだよ!そもそも星って普通夜見るもんだし。」

将也が望遠鏡から顔を離し簾を見た。

「なんだよ、それ?お前が昼でも見えるっつったんだろ。」

将也の怖い顔にビビる簾。

「あ・・・さ・・・探すから!ちょっと待ってて!コーヒー作ったから!飲んで待ってて!」

そう言うと望遠鏡を覗き必死に星を探す簾。将也はその姿を後ろから眺めて幸せそうに微笑んでいる。

「あったか?」

気まずそうに振り返る簾。

「・・・やっぱり・・・もう・・・少し?・・・暗くなってからでもいい?」

「それまで何する?」

「え?!いやぁ・・・何って・・・そんなこと聞かれても・・・。」

簾は照れて将也に背中を向けた。

「掃除。」

「え?」

将也の言葉に振り返る簾。

「今日お前当番だろ。」

そう言うと将也は行ってしまった。

「はぁ・・・。」

簾は大きなため息をついた。下を向いていると将也が戻ってきて勢いよく簾に抱きついた。

「嘘だよ。」

そう言って簾にキスをする。

 

 

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