青空で光る星~日が暮れて


「ぎゃははははは!もーやだー!たしの一張羅よぉー!」

「泉!おしぼり!いっぱい持ってきてー!また零したのよー!」

「はーい。」

「こんなびしょびしょでどうすんのよー!」

 

居酒屋が立ち並ぶ道。俊太郎と将矢は店の前に立つ。すでに日は暮れていて、周りをちょうちんや店の灯りが照らしていた。

2階建ての小さな建物。入口には「花」と看板が出ている。紫の背景に黄色の字が安っぽく光っていた。中からはどう聞いても男の声が聞こえる。それと、お客さんらしきおじさんの声も。

建物と建物の間に窮屈そうに建っている古びた一軒屋の前で、2人は店を眺めて立つ。

隣もその隣もスナックか外にイスが並ぶ小さな居酒屋だ。

 

「やっぱりやめた方がよくね?」

将矢は嫌そうにそう言うと俊太郎を見る。その横顔はまるで夢に向かって一直線の若者と言う感じだった。目を輝かせ、興味深々と言ったところだろう。その顔を見て将矢は大きくため息をつき、肩を落とした。

 

「カランコロン」

ドアを開けると、古びた喫茶店のような音が鳴った。最初に入ったのは俊太郎。期待に満ちた嬉しそうな顔でドアを開け中を覗く。

「いらっしゃーい。」

すると中からは上品な声が聞こえてきた。

「あら、やだ。」

入って来た俊太郎を見て唖然としている。

「お邪魔します!」

俊太郎は相変わらず大きな声で挨拶をした。

「ちょっといい男じゃない!」

奥から聞こえてきたのは最初の上品な声とは違って、ガラガラの良く響く太い声だ。

「えー!うそー!見せてー!」

「あたしも見たーい!」

声の高い男たちが次々と席を立ち入口に集まってきた。

俊太郎は嬉しそうに笑っている。

「こんばんは!こんばんは!」

人がやってくる度に元気に挨拶をする。

集まってきたのはぴちぴちのシャツを着た、どことなく体格のいい、坊主や短髪の男たちだ。年齢はどう見ても40を超えていた。

「いつからこの店こんなイケメン雇うようになったのよー!」

「あんたまたどっかで金ちらつかせたんでしょー!」

俊太郎を見て興奮している男たちが奥で座っている声がガラガラの男に呼び掛ける。

「あははははは!馬鹿なこと言うのやめなさいよ!」

気分良く返す。

 

「ほら!迷惑でしょ!戻りなさい。」

上品な声で俊太郎に集まってきた男たちを席へ戻したのは最初に声を掛けてきた人だ。白に黒のストライプが入ったドレスを着ている。袖はゆったりとしていて、胸元が大きく開いている。耳にはキラキラとイヤリングが光っていた。横に流した前髪と、首元まで伸びる髪が艶めいている。

まるで見た目は女性そのものだった。

 

一方、奥に座っているのは、100キロを超えてそうな大きな体の女装をした男だ。髪はトップでまとめられて、化粧もバッチリ。黒のドレスはその大きな体よりもゆったりとしている。凹凸のない首元と、丸々とした腕がドレスから出ている。そして、なぜか頭から膝までびしょ濡れだ。

 

俊太郎に群がっていた厳つい男たちは不貞腐れたように奥の席に戻っていく。

店の中は縦長で、入ってすぐ左手にカウンター。そこに上品な声の男がいる。どう見てもママだ。その奥には壁にソファがあり、一番奥にはカラオケのモニター、テーブルをはさんだソファの向かいには丸いいすがいくつかあった。

 

「誰かのお友達でしょ?呼ぶわよ?」

カウンターの中にいるママが優しく問いかける。

すると俊太郎の後ろから将矢が現れた。とてつもなく嫌そうな顔をしている。

すると、店中の男たちが声を上げた。

「「まーくんの友達ぃ!!!!」」

 

 

「あたしがケイコ!」

白地に黒のストライプが入ったドレスを着ている上品なママが紹介し始める。

「本名はけんいち。」

自分を女性の名前で紹介するケイコにブツブツとつぶやくように訂正を入れる将矢。

 

「こっちがレイコ。」

太った大きな体の男だ。俊太郎に嬉しそうに手を振る。

「男のくせに本名、れいって言うんだ。てか、何で濡れてんの?」

 

「こっちはただの客。」

2人いる客は適当に紹介される。

「ちょっとぉー!」

「なーによー!」

「おだまり!」

ケイコに怒られ黙ってしまう客たち。

 

「こっちは長男の智博。」

「おっす!」

俊太郎よりも体のでかい智博。Tシャツの袖をまくり、下はスウェット。筋肉をたっぷり蓄えた体はまるでアスリートのようだ。真っ黒に日焼けしていて、髪は短く整えられている。

「土木の筋肉アホボクサーだよ。」

ぼそっと言う将矢をげんこつする智博。将矢は頭を押さえ無言で痛がる。

 

「こっちは泉。」

肩まで髪を伸ばした女の子。

「長女の泉です。よろしく。」

礼儀正しく挨拶する。白いパーカーにジーンズとシンプルな格好で、顔は少し幼いがしっかりしてそうだ。

泉の時だけは何も言わない将矢。

 

「この子が裕介。」

体が大きくなりきっていない成長期の子供だ。髪は前髪を伸ばし、黄色のシャツに短パン。手にはゲーム機を持ちながら、愛想がない。紹介されると軽く会釈をして再びゲーム画面に夢中になる。

「おい!ちゃんと挨拶しろ!」

将矢は急に兄貴ぶる。

「お前が言うな!」

智博に再びげんこつされる将矢。

 

「この子が七海。」

「こんにちは。」

少し恥ずかしそうに挨拶をする小さい女の子。まだ小学生低学年くらいだろうか。恥ずかしそうにレイコの後ろにいる。

「クソガキ。」

「クラァ!!!」

呟く将矢に再びげんこつする智博。

「痛ってーな、さっきから!」

そう言い返すと2人は喧嘩を始める。しかし、力では敵わず、将矢は後ろから体を抱かれ腕の自由を奪われた揚句、手でほっぺたをつねられる。何か反抗しながら言っているみたいだが、聞こえない。

 

「お腹空いてるでしょ?夕飯、食べて行きなさい。」

ケイコが上品な口調で優しく言うと俊太郎は嬉しそうに笑った。

 

「泊まっていきまぁす!」

「え?」

大声で言う俊太郎に言葉を無くす将矢。

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