外は良く晴れている。昼を食べ終えた生徒たちが、制服のままグラウンドでサッカーをしたり、鉄棒をしている。
教室には数えるほどしかいない。
将矢は廊下に出ていた。隣のクラスを、廊下の一番端に立ち覗きこむ。将矢の視線を感じてクラスの女子たちがあからさまに陰口を言い始めた。それに気が付いた将矢は、顔を下ろす。
クラスには俊太郎の姿は見当たらない。
「遠田は今日休みだ。」
職員室で将矢は教員にそう言われた。教員は将矢の顔も見ることなく、雑誌を読みながらそう答えて、それ以上何も言わなかった。
「・・・はい。」
力無く言うと、出て行く。
教室で一人、将矢は窓から外を眺めていた。その時、将矢の後ろで大きな音がする。振り向くと3人くらい、男子生徒がにやつきながら将矢を見ている。その横には倒れた机と、散らかった教科書。将矢の名前が書かれている。かばんも踏みつけられている。
「わりぃ。」
一人の生徒がそう言うと、踏みつけた鞄を勢いよく将矢に向かって蹴り飛ばす。将矢は両手で顔を覆う。その手に鞄がぶつかって床に落ちた。
生徒たちはけらけらと笑いながら教室を出て行く。
将矢は床に落ちた鞄を見つめ、悲しそうな顔をした。
「まーくん!俊君来てるわよ!」
ケイコが1階から2階に向かって叫んだ。
「よう!」
昨日と変わらない、満面の笑みで片手を上げて挨拶する俊太郎。なぜか制服を着ている。
「お前、今日学校休んだんじゃ・・・。」
階段を下りて店に出ると、俊太郎はカウンターの席に座っていた。良く見ると手にはビニール袋を持っている。透明な袋の中は氷だ。
「なんだよ?喧嘩でもしたのか?」
将矢は近づくにつれ俊太郎の顔に気が付く。切れた口元に目元の痣。頭には目で見てわかるほど大きなたんこぶを作っていた。
制服もうっすらと血や泥のような黒い染で汚れている。
「あははは!俺強えーから!」
俊太郎は呑気に笑っている。確かに俊太郎の体格ならそう簡単に負けたりしないだろう。
「お前喧嘩して学校休んだのか?」
将矢は隣に座る。
「はい、これ。向こうで着替えて。それは洗濯してあげる。」
後ろから泉が着替えを持ってくる。
「あ、俺のシャツ!」
将矢が持ってきた着替えを見て声を荒げる。
「貸してあげなさい!」
「貸してあげなさい!」
ケイコの真似をして俊太郎はにこにこしながら将矢にそう言った。そして、奥へ行く。その姿を見送る将矢。その姿をケイコは黙って見つめている。
「喧嘩なんかすんだな、あいつ。」
ぼそっと呟く将矢。不貞腐れたような顔をする将矢を見て、ケイコはため息をついた。
「そんなわけないでしょ。」
「え?」
「あんな優しい子が喧嘩なんかするわけないでしょ。」
そう言うと救急箱を片づけ始めるケイコ。
「じゃあ、あの怪我は?」
ケイコは深刻そうな顔をした。
「親にやられたのよ。」
ケイコは一瞬遠い目をする。将矢の顔が曇った。
「なんで・・・わかんの?」
ケイコは将矢を見る。
「長いこと生きてるといろいろあるの。私みたいな人間は特にね。ほら、あんたも片付けるの手伝って。」
ケイコは切り替えが早い。将矢は何か考えながらも、テーブルの散らかった絆創膏のごみを片づけ始める。
「いいわよー!」
レイコは大きな体を店のソファーにどっしりと乗せてグラスに入った酒を飲みながら低くずぶとい声で嬉しそうに叫ぶ。
「いや、だめだろ!」
将矢はその向かいに座り同じく大声で怒鳴る。
「なぁんであんたが決めるのよ!」
「俺が決めるも何も、こいつ高校生だぞ!んでもってここはオカマバーだぞ!」
将矢は立ち上がる。
「オカマバーじゃなくてゲイバーって言いなさいよ!」
「何でもいいんだよ!デブ!」
「あたしのどこがデブなのよー!」
レイコはだんだん声を荒げ始めた。
「あはははは!」
大声で笑ったのは俊太郎だ。レイコも将矢も2人の間に座る俊太郎を見る。
「俊くん、気持ちは嬉しいけど駄目よ。高校生が水商売なんて。それに、あんたうちでなんか働いたら色々言われるわよ。」
ケイコは冷静にカウンターから諭す。
「俺ここが好きなんです!ここで働きたいんです!」
「いいじゃない!どーせわかりゃしないわよ!」
レイコは呑気なものだ。
「まあ、俺達働いてるようなもんだしな。」
カウンターで洗い物をしている智博も呑気にそう言う。
「なんだったら給料もいらないし!飯食わせてくれれば!」
俊太郎は嬉しそうだ。
「はぁ・・・。」
ケイコは腕を組み困っている様子だった。
「いいんじゃねーの。飯だけなら。」
智博はケイコを説得する。
「智兄ぃ。」
俊太郎はそう言いながら智博を見つめてなぜかうっとりしている。その姿に将矢は気が付く。急に怪訝そうな顔をして俊太郎とその視線の先にいる智博を交互に見つめた。
「まあ、まずはご飯だけ食べにきなさい。」
ケイコがそういうと俊太郎はガッツポーズをしてレイコとハイタッチした。
「はぁ・・・。」
将矢は溜め息をつく。
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