店の外では俊太郎の父親とケイコが何やら話をしている。その後ろで俊太郎は暗い顔をして背中を丸めていた。
俊太郎の父親はスーツを着ている。メガネをかけて、背が高くがっしりした体形だ。
その様子を将矢と智博が奥から見ている。智博の足元には七海が隠れるようにしがみついていた。
俊太郎は今までの明るさが嘘のように暗くなり、さっきまでの笑顔もいつもの堂々とした態度も嘘のようになくなっていた。
少し話をすると、俊太郎の父親は背中を向け歩き始めた。俊太郎は洗濯してまだ乾いていない制服を受け取ると、足取り重く父親の後を追った。去り際、奥の将矢の顔をちらりと見た。どこか寂しそうな顔をしていた。
夜。家の明かりは消えて皆寝床についている。
「なあ、ケイコ。」
リビングで一人寝る将矢は奥の部屋で寝ているケイコに呼び掛けた。ケイコは返事をしない。
「・・・。」
将矢はしばらく黙りこみ立ち上がる。そして智博のいる部屋へ向かうとドアを開けた。すでに暗くなっていて、そこには智博が寝ている。
「俺にボクシング教えてくれよ。」
将矢は唐突に言う。
「・・・なんで?」
智博は少し黙っていたが、静かにそう聞いた。
「・・・・・・。」
将矢は何も答えずじっと立っている。
「明日寄り道せずに帰ってこい。」
智博はそう言うと、寝がえりをうち将矢に背を向ける。
次の日、将矢は帰り道を走っていた。
「なんでそんなに急ぐんだよ!」
後ろから俊太郎が追い駆ける。
「お前は店行ってろ!俺は用事があるんだ!」
そう言うと、将矢は俊太郎を待つことなく行ってしまう。俊太郎は走るのを止めて、肩を揺らしながら将矢の後姿を見送る。
家の真向かいにある空き地でグローブを付ける将矢。
「カッコいいだろ!小遣いで買ったんだ!よしっ!何からやる?」
将矢の前には智博が立っている。白いシャツをまくり、太い腕を見せていた。しかしグローブは付けてない。
「お前何グローブなんか付けてるんだ!まだ早い!筋トレからだ!」
「えー!せっかく買ったのに?それボクシングじゃねーじゃん!」
「文句言うな!さっさと始めろ!ほら!腕立て!」
それから智博の厳しいトレーニングが始まった。俊太郎よりも智博よりも小さく細い高校生らしい体つきの将矢は、筋トレだけで根をあげていた。額に大粒の汗を掻きながら、唸り声をあげて筋トレに励む。智博はその間将矢の頑張る姿を見ることもなく、ケータイをいじる。
「終わったぞ!」
「逆立ち!」
「逆立ちぃ?!」
顔を真っ赤にしながら踏ん張る将矢。その横では七海と智博が縄跳びで遊んでいる。
ある時は七海の使うピンク色の縄跳びで延々飛び跳ね、また腕立て。七海を背中に乗せて腕立て。うさぎ跳び。近くの公園で懸垂。ひたすら腹筋。将矢は時折智博に反抗しながらも、用意されたメニューをこなした。
やっとボクシングを教えてもらえると思えば最初は基本的な構えやらステップやら、ボクシングらしいスパーリングやミット打ちはまだやらせてもらえず、ちょっとでもフォームが違うと智博にビシビシ殴られた。
「教え方が悪いんじゃねーのかー!」
智博のスパルタなやり方に時には反抗して飛びかかることもあったがいつも決まって返り打ちにあっていた。
やがて、その練習に俊太郎も参加するようになり、ケイコが時折飲み物を持ってきた。レイコは端で七海とヤジを入れる。
次第に将矢のフォームも形になると、俊太郎とスパーリングをしたり俊太郎と二人がかりで智博に飛びかかって行ったり。ボクシングでなくとも智博は強くいつも関節技を決められ負けてばかりだった。
智博がいないときは竹刀の先にボクシンググローブを付けて、それを裕介に持たせランダムに打たせて交わす練習をしていた。しかし、裕介はゲームをしながら将也を見ずに適当に打つ。将矢はそれに怒りゲームを取り上げると怒った裕介は竹刀をこれまでにないほど激しく突き出し、そのほとんどが将矢にヒットする。
「こで、がえすよ・・・。」
顔が腫れあがった将也はゲーム機を裕介に返す。
雨の日も晴れの日も、智博がいない日もいる日も、俊太郎と一緒に、時には一人で、夕方になっても、陽が暮れても、ケイコのご飯ができたと言う呼びかけも無視して毎日将矢は練習を続けた。
毎日、くたくたになるまで練習を続けた。
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