青空で光る星~暗い道


「俊太郎は?」

帰ってきた将也はケイコに尋ねる。

「お帰り。学校じゃないの?店手伝ってちょうだい。」

「あいつ今日学校休みだったんだ。ボクシングするから無理。」

そういうと将也は一目散に2階へ飛んでいく。

 

 

もうすでに日が暮れた。将也は町内を走っていた。白いシャツを智博のように袖をまくり、汗で濡らしている。もうすぐ家の前につく。そして、前にある空き地に入るとこぶしを構えた。

しかし、構えたこぶしをすぐに下す。よく見ると街灯もない空き地の奥に、男が座っている。体育すわりをして顔をうずめているようだ。

将也はそっと近づく。

「・・・俊太郎?」

そこにいたのは俊太郎だ。学生服のままだ。

「何してんだよ?ほら、うち入れよ。」

将也がそう言っても俊太郎は立つどころか顔を上げようともしなかった。

「俊太郎?」

将也は俊太郎の前で覗き込むようにしてしゃがみ込む。

「俺・・・。」

俊太郎が呟く。

「もう無理だ。」

よく聞くと声が震えていた。

「何かあったのか?」

将也は心配そうに尋ねる。すると俊太郎は顔をゆっくりと上げた。

「?!」

将也は驚きを隠せない。俊太郎の顔は痣だらけで、目は晴れ上がり口からは血を流していた。顔は泥だらけで、腕にも口から落ちた血やよだれ、涙がついて濡れているのが分かった。

俊太郎は顔を上げてもまだ泣いていた。

「その怪我・・・。」

将也はそれ以上聞くことができず、ひどくショックを受けているようだった。

「将也の家族が羨ましい・・・俺にはなんであんな家族がいないんだろう。もう帰りたくない・・・。」

そういうと俊太郎は肩を揺らしながら、涙を流し始める。その痛々しい姿に将也は返す言葉もない。ただ見つめることしかできなかった。

 

俊太郎はすぐに腕で涙をぬぐう。鼻をすする音が響く。

「ははっ、かっこ悪いよな。お前のこと守ってやるとか言っといてさ。俺が一番・・・俺が一番弱いんだ。本当は強いふりしてたけど・・・俺ってかっこ悪いよな。」

俊太郎はわざと笑って見せる。強がっていることはどう見ても明らかだった。

「ずっとうちにいればいいだろ?」

将也は遠慮気味に言う。

「無理だ。・・・きっと逃げられない。親父ここに来てただろ?」

俊太郎の言葉に力がない。

 

 

「・・・・・・じゃあ逃げよう。」

 

 

将也は立ち上がると、唐突にそう言った。

「え?」

俊太郎は立ち上がった将也を見上げる。

「俺と逃げよう!」

そう言って、将也は手を差し伸べた。

「誰も知らない、お前の父親も知らない、追って来れないほど遠くにさ!俺、金、取ってくる。小遣いならある。山でも川でも海でも、どこでも行ってやる。食べ物だって取ってやる。」

将也は真剣な顔で話す。

「働いて金も稼ぐ。住むところだって見つけてやる。学校なんかもうどうでもいい。」

驚いた様子で見つめる俊太郎。

 

将也は膝の上に乗せている俊太郎の手を取った。力強く握り、引っ張った。

 

 

「俺と逃げよう!誰も知らない場所に、誰もいない場所に!」

 

 

俊太郎は瞳に溜まった涙を流す。そして大きく頷いた。

 

 

将也は汗をかいたシャツのままだ。俊太郎は学生服のまま。シャツには泥や血がうっすらと残っている。かばんも持っていない。ひどい傷はすでに血が止まっていた。

2人は小さくて古びた駅でただ座って乗り継ぎの電車を待っている。安っぽい蛍光灯が照らす。

 

電車では疲れ果て、俊太郎は将也の肩を借りて眠っている。向かい合うタイプの席に並んで座り、将也はただ外の景色を眺めていた。

 

長い時間、電車に乗っていた。車内に駅員の声が響く。聞いたこともないような駅の名前が呼ばれても、2人は降りることはなかった。

どこかの終点に着くたびに電車を乗り換えては、ひたすら遠くへ向かった。

 

ただあてもなく、遠くに向かった。

 

将也の携帯がしきりに鳴っているが、出ようとはしない。電車の車両の中には2人の他に乗客はいない。俊太郎はケータイすら持っていない。

 

やがて空が真っ暗になり、時間も遅くなる。車両の中に「終点」の知らせが響く。そして、2人は電車を降りる。

将也は小さな財布からぐしゃぐしゃになったお札を出して、改札で駅員にお金を払う。

 

 

駅の時計は深夜12時過ぎを指していた。駅のベンチに寄り添うように座る二人。2人ともずっと無言のままだ。

将也は心配そうに俊太郎を見つめた。俊太郎は将也の顔を見てにこりと笑う。顔の傷が痛々しい。

「行こう。」

そう将也が言うと2人は駅を出て、暗い道を歩き始めた。

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