どこかもわからない山奥。街灯もなく暗い夜道を2人が歩いている。俊太郎の顔は疲れ、将也もその姿を心配そうに見つめる。
すると、ぽつぽつと雨が降ってきた。
「あ。」
将也は空を見上げる。そして空を見上げてすぐに雨は勢いを増し、大粒のしずくが次々と落ちてきた。あたりには雨音が轟々と響いている。
将也がふと隣を見ると、俊太郎が寒そうに両腕をつかみ肩をすくめていた。その時、横を車が通る。雨音で気が付かなかったが、ライトが一瞬二人を照らした。
「うわっ!」
一気に溜まった水たまりが、車の勢いで二人にかかった。将也は恨めしそうに車を見つめる。すると、車が走っていく先で、一瞬ライトに照らされた小さな小屋が目に入った。
「俊太郎、こっちだ!」
将也は俊太郎の腕を引っ張る。
小屋の中は狭く、まるで小さなコテージのようだった。誰かが使っている形跡もなく、恐らく猟か登山の休憩所として使われていたものだったのだろう。ただ丸太で組み立てられただけの小さな小屋で、扉は鍵もなく、窓も錆びていてガラスもない。
扉を閉めれば雨風はしのぐことができた。
「服、乾かそう。」
そういうと将也は自分の服を脱ぎ、そっと床に置いた。ズボンも靴も靴下も脱ぐ。パンツ一枚になると俊太郎を見た。俊太郎も服を脱ぎ下着だけになっている。
「・・・疲れただろ?今日はもう休もう。」
将也の言葉にも力がない。
「うん。」
俊太郎は笑って見せる。
「寒くて寝れないからくっついてよ。」
いつも元気で明るく、声が大きい俊太郎ではなく、疲れて弱々しい修太朗がそこにいた。今にも死んでしまうんじゃないかと思うくらい顔色も悪い。
「・・・ああ。」
将也は少し照れ臭そうに、そばに寄った。
2人は壁にもたれ座ると、体を寄り添わせる。
「気持ち悪いか?」
俊太郎は相変わらず弱々しい声で、笑いながらそう尋ねた。
「いや・・・そんなこと。」
将也は気持ち俊太郎のほうに体を寄せる。
「震えてるのか?」
すると俊太郎の体の震えに気がついた。将也は手を俊太郎の肩に回し、回した手で体をなでる。
「あったけぇ。」
俊太郎は震えた声で、また笑う。
「・・・ごめんな。」
将也は俊太郎を見て突然謝りだした。
「え?」
「逃げようなんて偉そうなこと言ってたのに、こんな思いさせてさ。」
将也は下を向き、落ち込んでいるようだ。
「俺って結局一人じゃ何もできないんだな。こんなんじゃ智兄に俊太郎を取られても仕方ないよ。後悔・・・してるだろ?」
「何言ってんだ。後悔なんかしてない。」
「でも・・・。」
「それに、俺は初めからずーっとお前がいいんだ。」
「え?」
「ずっと、好きなのは将也だ。嬉しかったよ!逃げようって言ってくれたことも、俺と友達になってくれたことも・・・今の告白も。」
その時、俊太郎はいつものように笑っていた。
そう言う俊太郎を将也はじっと見つめる。笑っていた俊太郎の顔はすぐに真顔になり、そして俊太郎から顔を近づけてきた。軽く将也の唇に触れるとすぐに離した。将也はしばらく俊太郎の顔を見つめたままだ。
そして今度は将也から顔を近づけキスをした。俊太郎が将也の頬に手を当てると、将也も俊太郎の顔を持ち、すぐに激しいキスに変わる。まるで求めあうように、ひたすらキスをした。そしてお互いの手がお互いの体へと移っていく。
「俺・・・初めてなんだ。」
将也は唇を離しそう言うと俊太郎はすかさず返す。
「俺もだ。」
俊太郎はそう言うと返事も待たずに再び唇を重ねる。そして、将也を押し倒した。
いつの間にか、雨は止んでいるようだ。空には月が出て、小さく破れた窓から月明かりがさす。街灯もないのに、小屋の中はそれだけで明るく見えた。
将也は窓から見える空をぼーっと眺めていた。体も乾き、風もやんでいる。
「雨、止んだな。」
ちょうど月明かりが入る場所に二人は寝転がり、手をつないでいた。もう下着も脱ぎ、2人とも全裸だ。
「起きてたのか?」
将也が少し驚いたように横を向き尋ねる。
「こんな場所じゃ寝れないだろ。」
「はは、ああ、確かに。」
「俺たち、恋人同士だよな?」
俊太郎は寝ぼけているのか起きているのかよくわからない、寝言のような声で呟く。
「ああ。」
「へへ。」
俊太郎は嬉しそうに笑う。
もう寒くないか?
ああ、暖かくなった。
2人とも空に光る月を見つめる。
やっぱり空はいいなぁ。
また空か。あほみたいだからやめたほうがいいぞ。
なんで?
空ばっかり見上げてぼーっとしてさ。
いいんだよ。あほで。そんな俺のことも好きだろ?
いいんだよ、そんなこと聞かなくて。
俺、初めてだ。恋人出来たの。
俺は二人目。
え?将也さっき初めてだって言ってだろ?
ああ、でも恋人は二人目。
誰だよ!
そんなにムキになるなよ、小学生の時に同級生と。
小学生?あはははは!そんなの数に入れんなよ。
笑いすぎだろ!
じゃあ将也も初めてみたいなもんだな。
みたいじゃなくて初めてだよ。
じゃあさ!初デートはどこに行く?もうすぐ夏休みだろ?
え?ああ、夏休みかぁ。デートねー、考えたことないよな。デートっていえば・・・遊園地とか?
将也かわいいなー!遊園地って!
じゃあお前はどこがいいんだよ?
俺は、夏休みったってどっか連れてってもらったことないし。将也といられるならどこでもいい。どこにいくんでも一緒ならいい。
なんだよ、それ。場所じゃねーじゃん。
いいんだよ!だから俺と一緒にいような!ずーっと!
はは、ああ。じゃあ祭りとか、キャンプとか、花火とか夏らしいことしよう。
ああ!それいい!そういうのいいな!
じゃあ、夏休みはずっとうちに・・・あ、もう俺たち家出したんだよな。
・・・・・・帰りたいか?
そんなことない。俺はお前を守る。守ってやる。
・・・・・・うん。
俊太郎は再び将也にキスをした。さっきみたいに必死に求めるのではなく、安心した顔で、優しく。