一人


グラウンドでは剛が筋トレ。部屋では先輩たちが何やら神妙な面持ちで話していて、春樹はどこへ行ったのかわからない。俺の居場所はすっかり無くなっていた。

 

俺は体育館で一人ぼーっとするしかなかった。

 

 

考えることと言えば、一成先輩のことだ。未だに俺のことが好きなんて、どう考えても信じられない。というか、好きだと言われてもピンとこなかった。今まで誰かが好きだとか、付き合いたいとか考えたこともないし。そんな感情自体、どんなものなのかよくわからずにいるから。だから、単純に剛と付き合えばいいのに、なんて思ってしまう。剛は一成先輩がきっと好きだし、先輩だって剛のことは嫌いじゃないはずだ。一番懐いてるし、仲良いし。剛は俺と違ってやる気あるし。

 

俺は・・・やる気ない。

 

今だって、先輩が俺のいらつくことを言ってくれるから、練習の時に感情的になれる。これが先輩とじゃなかったら、ちゃんとできるかどうかわからない。闘争心も悔しさもない俺には、向いてないのかな。皆は何を理由に、あんなに頑張れるんだろう。

俺も、目標が欲しい・・・。

 

 

「一人?」

ふと俺に声をかけてくる人がいた。考え事をしているうちに俺は体育館の壇上で横になって天井を見上げていた。

声のした方を見て、俺は飛び起きた。

「お!お疲れ様です!」

思わず声が裏返る。そこにいたのは國保先輩だ。全然気が付かなかった俺は動揺してしまう。来ているシャツは膨れ上がり、まるで柔道師範代みたいだ。

「他の奴らは?」

國保先輩は相変わらず鋭い視線と低い声で俺にそう聞いてきた。

「あ、あの・・・他の1年は・・その、筋トレと・・・後はどこにいるのか知らなくて・・・えーっと、2年生は・・・あの・・・。」

俺はなんて馬鹿なんだ。皆ばらばらでどこにいるか知っているもんだから、ちゃんと答えようとして逆にあたふたしてしまう。俺は一人でサボっているみたいに思われて怒られるんじゃないかととっさに考えて、聞かれた質問に答えるために必死になっていた。

「お前さ。」

俺が全て答えきらない内に先輩が口を開く。俺はなぜか手が震えている。

「はい・・・。」

声まで小さくなる。

「頑張ってるのか?」

先輩はジャージ姿でポケットに手を入れ、壇上の前に立つ。俺を見上げている感じだ。

俺はいきなりの質問に言葉に詰まる。でも必死になって答えようとした。

「・・・・・・はい。」

「そうか。辞めんなよ。」

「え?」

強面で言われる。

「練習すれば、いい選手になる。」

國保先輩は表情一つ変えず、淡々と言う。その言葉に、なんだか俺は悲しくなってきた。

「・・・・・・多分、それ俺じゃないっす。」

いつの間にか緊張は解けていた。それよりもなんだかショックだったから。

「飯塚 剛って1年がいるんすよ。多分、そいつのことじゃないっすかね。俺達似てるって言われるんで。」

最後に俺は笑ってごまかした。

「俺は・・・頑張ってるってのも嘘です。・・・俺なんか全然頑張ってないっす。」

勢いでニコニコしながら言ってみたけど、やっぱり駄目だった。最後には暗くなってしまう。だけど、それが本心だった。合宿の間、一成先輩の期待に応えたくて頑張っていたけれど、なんだか皆の真剣さには追いつけなくて、自分はここにいちゃいけないような気になってきて、俺は男闘に慣れなかった。この合宿で良くわかった。自分には目標が無いんだと。

「俺はお前のこと言ってんだ。」

「え?」

予想外の言葉だった。

「悩んでんだろ?」

「・・・はい。」

「俺もそうだったよ。いいから、とにかく辞めるなよ。」

そう言うと、行ってしまった。

 

 

國保先輩、きっと誰かを探しに来たんだろう。2年生か先生だと思う。

「俺が・・・いい選手に・・・。」

俺は壇上に座り、一人考える。

そんなこと言われると思ってなかった。俺にそんな言葉をかけてくれるって思ってなかった。

 

 

そう言えば、俺は國保先輩に憧れて入部したんだ。考えてみればおかしな話だ。あんな厳つい人のオナニー姿を見てかっこいいと思うなんて。なにがそんなにかっこよく見えたのか。

國保先輩が俺と同じように悩んだなんて信じられない。皆、最初はそうなのかな。俺も國保先輩みたいになれるのかな。

俺には先輩の言葉はどうにも信じられなかったけど、でも嬉しかった。

全く・・・俺ってなんて単純なんだ。

 

 

そして夏休みが終わる。夏休み明けには試合がある。俺達は夏は出られないから応援だ。

まさか、そこで俺が事件を起こすなんて思わなかった。

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