俺はトイレの個室で葉野付属高の生徒と向かい合っている。いつもの俺じゃない。真っ直ぐに相手を睨みつける。相手はなんだか余裕のある顔で澄ましてやがる。鼻がくっつきそうなくらい近い。
「俺とさ、男闘で勝負しようぜ?」
いきなりの言葉に唖然としていた俺を他の数人の葉野付属高の生徒が一気に取り囲み、両脇を持たれて無理やり連れて行かれた。俺は大声で叫ぼうとしたが口を押さえられ叫び声も届かず、体育館施設の一番奥にあるトイレに連れてこられた。
廊下にはほとんど人もいない。多分横はバスケットコートがある体育館か何かだろう。今日は試合も練習もない。男闘の試合をしてるんだ。誰かが出入りするはずもない。完全に貸し切りだ。こっちの方は使わないから人もいないのだろう。
「痛って!」
俺は乱暴に一番奥の個室に押し込まれた。俺よりも体の大きいその生徒の握力は強く、掴まれた脇がじんじんと痛む。
するとそこへさっきの男が入ってきた。ポケットに手を入れて相変わらず澄ました顔をしている。ドアが閉まり男がカギを掛けた。
「大輝君が勝ったら僕はもう手を引くよ。でも君が負けたら僕と付き合ってよ。」
「バカか、お前!なんで俺がそんな勝負受けなきゃいけねぇんだよ!」
俺はめちゃくちゃむかついていた。感情的になる。
「大輝君、一成先輩のこと好きなんだろ?」
「え?」
不意を突かれる。なんでそんなこと知ってるんだ。俺はいら立ちを一瞬忘れて頭が真っ白になる。
一成先輩とのことは隆史にしか話していないのに。それともどこかで聞かれていたのだろうか。俺と一成先輩が公園で話していた時?隆史とうどん屋の帰り道で話していた時だろうか。
「・・・なんで?」
「やっぱりね。見てたんだ。」
相手はほほ笑んだ。まるで勝負を挑んできた男の顔には見えないさわやかな頬笑みだ。
「何を見てたんだよ!」
俺は相手の胸ぐらをつかんだ。反射的にだ。
「一成先輩の試合中、ずっと勃起してただろ?」
「え?」
俺はさっきから図星を言われるとそれしか言えない。
そう言われてみればそんな気がする。一瞬のうちに記憶を手繰り寄せ思い出した。確かに勃起していたかもしれない。前を隠すことも忘れ夢中になっていたかも。
「し・・・してねぇよ!」
そう言いながら自分でもダサいと思ってしまう。絵にかいたような動揺だ。
「男闘の試合では良くあることだよ。僕が君の恋心を知ったのはそれよりも君の表情かな。先輩を見てる時のあの顔を見て、もしかしてと思ったんだ。」
こいつは俺を試していた。俺はすっかり乗せられてしまい、自ら告白したようなものだろう。気が付いた時には遅かった。
「あ・・・あのなぁ!俺が好きなんじゃない!先輩が俺を好きなんだよ!」
「・・・へぇ。」
相手はにやりと笑う。それを見て俺はしまった!と思ったが、もうここまで来たら引けない。
「なんだよ!文句あるか!」
こんな狭い個室の中じゃたいしたこと出来ないけど、俺はいつでも殴りかかる準備はできていた。そう言って一歩近づく。
「いいや、僕が好きになった男だ。当然ライバルがいると思ってたさ。」
相手はまだ余裕だ。しかもよりによって俺を好きだなんて。俺は正面からそう言われて少し後ずさりしながら視線を逸らしてしまった。何てやりにくい喧嘩だろう。
「だからさ、僕が勝ったら僕と付き合ってもらう。」
「だから!俺はそんな勝負しねぇっつってんだろ!」
「もし、勝負してくれないなら、先輩とのこと君の学校の顧問に話さなくちゃ。」
「は?」
最悪だ。そんなことしたら先輩もどうなるか。それともこれも試しているのだろうか。もしかすると恋人を作ることを禁止しているのはうちの学校だけかもしれない。どっちだ・・・?俺はどう答えればいいのだろうか・・・。
「大輝君の学校は恋愛禁止だろ?」
結局全部見通されている。色々考えてる自分がばかばかしくなってきた。
「くっそ、男闘だろ?さっさとお前を逝かせてやりゃあいいんだろ?やってやるよ!」
俺はついに覚悟を決めた。前に近づき相手を睨んだ。顔がくっつきそうなくらい近い。トイレの個室だから仕方ないが。結局俺は乗せられてしまう。相手も満足そうに微笑みながら俺をまっすぐ睨んでいた。
相手はジャージの上着のチャックを開ける。そして脱ぎ捨てるとさらにTシャツまで脱いだ。俺はこういうちゃんとした勝負は初めてだから正直何をどう始めていいのかわからなかった。なんだか相手は随分慣れているように見える。
俺はとにかくそのことを悟られないようにと思い、相手と同じようにチャックを開けて上着を脱ぎ捨てた後、Tシャツを脱いだ。
正直認めたくはないが、相手の体はすごくきれいだった。俺や剛みたいなごつごつした身体じゃなくて、バランス良く筋肉が付いていて、脂肪もうっすら乗っている。筋っぽくなくて弾力のある胸板に、綺麗に線の入った腹筋。腹斜筋もきれいに浮き出ている。
アスリートの筋肉だ。
「良い身体だね。めちゃくちゃにしたくなるよ。」
「うるせぇ。」
本当に絡みにくい。
相手はズボンも脱いだ。その間も俺達は睨み合っている。俺もズボンを脱ぐ。しかし靴が引っ掛かって全部脱げきれない。ふと下を見ると相手は靴を脱いでズボンを全部脱いでいた。靴下とパンツだけだ。俺も同じように靴を脱ぎズボンを脱いだ。
俺は黒のボクサーパンツ。それに対して相手は白のブリーフ。一瞬それを見て馬鹿にしてやろうかと思ったが、ゴムの所になんだかおしゃれな英語が書かれている。メーカーかブランドの名前だろうか。白いブリーフがこんなにもおしゃれに見えるなんて思ってもいなかった。ブリーフなんて子どもが履くものだと思っていたから。
「どうせなら全部脱ごうよ。お互い裸の方が責めやすいだろ?」
こいつ、どこまで慣れてるんだろう。俺は内心、負けるんじゃないかと思っていた。もし負けたらこいつと付き合うことになるのか。そんなの本気じゃないと思っていたが、負けるのは嫌だった。
お互い全裸になった。相手はすでに勃起している。俺は17センチくらいで太さもそれなり。相手は多分同じくらいだと思う。太さは俺の方が太いだろうか。でも相手は毛が少ない。というか体毛が薄くて、あそこの毛も薄目だ。その分なんだか大きく見えた。実際俺の方が太いだろうけど、ぱっと見同じくらいだ。
なぜか俺も勃起していた。普段は触られないとそんな風にはならないのに。初めての他人との勝負に興奮しているのか、それとも・・・、いや、そんなわけない。
2本の竿が真っ直ぐ相手に向かって、少し上向きに伸びている。お互い、時折ぴくんと上下に動いていた。俺達の竿は完全に相手に当たっている。全裸になり、改めてお互い睨み合い、そして身体を近づけ相手の竿を自分の竿で感じていた。固くなったそれはお互い押しのけ合うように交差してぶつかっている。
「始めるぜ?」
相手が不敵に微笑みそう言った。
「ああ。」
静かに俺が返事をする。そして勝負が始まった。