普通の学生


外では他のクラスの生徒が体育の授業をしている。今日は走り幅跳びだ。

 

 

俺は教室から外の景色をただぼーっと眺めながら、考えていた。

なんだか何もやる気が起きなかった。

 

 

東京であの事件が見つかった後、俺は田路先生にこっぴどく叱られた。そして、一人地元へ帰され、皆と同じ学生生活に戻った。

田路先生以外とは口を聞いていない。もちろん誰も見送りになんて来なかったし、隆史も剛も、声をかけてくれることはなかった。俺は一人で体育館の外のベンチで、田路先生が家に電話して地元に帰ることを告げ、チケット代を貰うまで一人待っていた。

 

当然、あの後一成先輩は俺の顔すら見ようとしなかった。

 

 

まるで嫌な夢でも見ているかのようだった。自分が何をしたのか、後になって気が付いて、だけどそれが現実には思えなくて。まるで他人事のような気がするくらい、別の世界に放り込まれたような気がした。

そして、急に一人ぼっちになった気がした。

実家の親は俺をひどく叱った。気のない返事をしてさっさと部屋に戻って、布団を被った。

 

 

皆、どうしてるだろう。試合はどうなっただろう。俺はこれからどうなるんだろう。

 

 

だけどなんだか不思議な気持ちでもあった。

『このまま俺は退部になるかな・・・自分から退部しようかな。』

時々そんなことを考える。いつも感じていた違和感、どんどん開いて行く剛との距離、めまぐるしく起こる色んなこと。多分あんな部活に入らなければ、俺はこのクラスの生徒みたいに、普通に学生生活を過ごして、どこかのクラスの女子とかと付き合ったりして、嫌々勉強しながらも友達と遊んで、そんな日々を送っていたのだろう。最近になってやっと他人の股間を触ることにも触られることにも慣れてきたくらい。だけど試合を見てるときっとそれ以上のことをやらなくちゃいけないんだ。そう思うと、なんだかもうどうでも良くなっていく。

 

 

だけど、俺の中であるものが引っ掛かっていた。あるものと言うより、ある人が。

 

よりによって俺のあの現場を見つけたのが、一成先輩だった。

他の誰かなら良かったのに、まさか一成先輩が見つけるなんて。

もうすぐ次の試合が始まるのに、俺の姿がないから探しに来たらしい。葉野付属高校の生徒があのトイレの辺りでうろうろしているのを見かけて、心配になり様子を見に来たんだそう。

悪いうわさが絶えないから、なにか暴力事件にでも巻き込まれていないかと心配で。

 

そんな気持ちで不安な中、見つけた俺の姿が知らない男とほとんどセックス。それを見た時はどんな気持ちだったのだろう。俺は誰かを好きになったことなんかないけど、なんだか想像できた。多分、傷つけた。

 

それも最悪だけど、もっと最悪なのは俺だ。一成先輩にもいい機会だと思ってしまった自分がいることだ。

そもそも俺に勝手に告白してきて、俺の気持ちなんかお構いなしで勝手に盛り上がって、時々彼氏面して。これで先輩が諦めてくれれば、俺は普通の学生に戻れるかもしれない。

そんなことを考えてしまう自分が何だか最低に思えた。誰かのことを裏切ったみたいで。

 

俺は毎日、自分は最低だとどこかで感じながらも、自分を肯定する日々を送っていた。それが本音な気もしていた。実際、一成先輩が諦めてくれて、部活も辞めて、あそこの誰ひとりとも関わることがなくなれば、俺はただ普通の男子高校生でいられる。それは今の俺にとってもはや憧れでもあった。

 

 

とにかく、皆に会いたくなかった。

 

 

そんな日々が数日続き、とうとう皆が帰ってくる日が来る。俺は本当に行きたくなくて、学校を休んだ。生まれて初めての登校拒否だ。まさか自分がそんな風になるなんて。母さんには、具合が悪いふりしただけだから、明日は行かなくちゃいけないだろう。それでも1日だけの休息が得られたと、どこかほっとした。でも、考えてみると、明日尚更行きづらい・・・。

 

 

夜、誰かが階段を上がってくる音が聞こえた。

「大輝!お友達よ!」

母さんの声が部屋の外から響く。

「開けるわよ。」

そう言ってドアを開ける。俺はベットの上に寝転がってケータイで動画を見ていた。気を紛らわせるためだ。

「友達が来てるわよ。」

俺は身体を起こす。

「友達?」

隆史だろうか。それとも剛?そんなわけない。

俺はベットから身体を起こす。なんだか気まずかったが、あれから少し日が経っているし、誰も見送りに来てくれないのも、ずっと誰とも会話できずにいたこともどこか寂しく思っていた俺は、照れ臭さと嬉しさを感じていた。

 

どんな顔をして会っていいのかわからなかった俺は何もなかったように平気な顔をして玄関へ降りる。そして、ドアを開けた。

「?」

誰もいない。

「隆史?」

俺はサンダルを履いて外へ出た。良くある地方の田舎道。小さめの家々が並び、人もいない。そのくせ道は広い。俺は門の外に出る。外に出て右を向くと隆史の家の方角だ。

「はぁ。なんだよ。」

そう言って家に入ろうとした時だった。

「大輝。」

後ろから声が聞こえる。

 

振り向くと、そこにいたのは隆史じゃなくて一成先輩だった。

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