多分俺は口を開け、馬鹿みたいな顔して突っ立っていたと思う。まさか先輩が来てくれるとは思わなかった。

 

「ちょっと話そう。」

先輩はまるで怒っているようだった。

「あ・・・・・・はい。」

俺もどうしていいのかわからず、ただ返事をした。

 

 

俺達は適当に歩いた。人のいない道をただまっすぐに。少し歩いただけで田んぼが広がる田舎道。それにもう夜だ。車すら通らない。

 

数分間、無言だった。ついこの前まで笑いあって話していたのに。

「・・・・・・怒ってます?」

先に耐えられなくなったのは俺だった。顔色を伺う。先輩は何か我慢しているようだった。俺の問いかけには答えない。

「あの・・・俺はもう、退部ですかね?」

先輩が立ち止って俺を見た。その行動に俺も立ち止まり、先輩を見る。正直今にも殴られるんじゃないかと怯えていた。

「辞めたいのか?」

「え?」

「退部するのか?」

先輩は怒ったような口調で言う。

「え?いや、辞めたいって言うか・・・あんなことしちゃったし、もう辞めさせられるのかなって・・・。」

俺は呟くようにブツブツ言うと下を向いてしまう。

「お前はどうしたいんだよ?」

「・・・俺は・・・。」

はっきりと答えられない。

「誰かが辞めろって言ったら辞めるのか?」

先輩はだんだんいら立っているようだった。

「お前の気持ちはどうなんだよ?」

「・・・いや・・・。」

先輩からの責めたてに俺はどんどん何も答えられなくなっていった。

「そうやって誰かが何か言ってくれないと何もできないのか?」

「え?」

先輩の問いかけに俺はたじろぐ。

「そうやって誰かが助けてくれるのを待ってるのか?いつまで悩んでるんだ?お前以外皆覚悟を決めてやってる。いつまでそうやって悩んでる?」

先輩は真剣な顔で強い口調で俺を責めた。

「いい加減に決めろよ。お前はどうしたい?」

「もうわかんねぇよ!」

俺はついに怒鳴ってしまう。そんなつもりはなかったのに、あまりに急に来られたから、どうしようもなくなった。俺の感情はもう溢れ出てしまった。

俺は出てくる涙を堪えて冷静を保とうとしたが、無理だった。怒鳴られた先輩の顔から眼を逸らした。

「俺だってあんなことしたくなかった!」

俺は堪え切れず泣いてしまう。

「だけど周りは皆平気な顔してやってるし、友達はどんどん離れて行くし、先輩からも変な奴からも告白されるし。俺があの日何見たか知らないでしょ?」

先輩の顔を見る。

「医務室で國保先輩と田路先生がセックスしてたんすよ。」

そう。俺が体育館の医務室で見たのは先生と國保先輩のセックス。先輩と目があったから、きっと向こうも俺に見られたと知っているだろう。

「こんなの・・・こんなのおかしい。俺はもう辞めたい。いつまでたっても周りみたいに一生懸命にもなれないし、剛にも嫌われて、知らない奴とセックスまでして、一番嫌なのはいつかそんなことしてもなんとも思わなくなることが一番嫌だ!」

「・・・じゃあ、もう辞めろ。」

静かな静寂の中で、先輩の言葉だけがはっきりと聞こえた。

「もう止めない。今までのことも全部忘れて、普通の高校生活に戻れ。お前の望み通りに。」

淡々と言うと、先輩は行ってしまった。何の迷いもなく、振り返りもせず。俺は一人きりでその場に残った。先輩の後姿も見れず、俯いたまま。

 

高校生になって初めて泣いた。

 

 

次の日、皆クラスにも帰ってきていた。体育の授業で一緒になったけど、口を聞いてくれなかった。まるで仲間外れにされてるみたいで、なんだか寂しかった。

だけど、俺が悪い。そう思って耐えた。

 

「大輝!」

帰りの校門で声を掛けてきたのは隆史だ。最近は仲良かったから。

「隆史。」

俺は正直嬉しかった。でも隆史の顔はなんだか不安そうで、なんだかこそこそ話すように話しかけてきた。

「お前、辞めたのか?」

「え?」

「なんだか誰もお前のこと話そうとしないし、なんか話しかけづらいし、先輩たちもピリピリしてて、なんかやりにくいし・・・なぁ、戻ってこいよぉ。」

助けを求めるように俺にすがりついてきた。

「お・・・俺は・・・無理だよ。ごめん。」

俺は隆史から視線を逸らし、いなくなった。隆史の表情は見ずに。

 

 

もう空は完全に暗くなっていた。俺は部活を止めたことを親には言っていない。だからいつも通り、適当に外で過ごして家に帰らなくちゃいけないと思った。

公園でブラブラしていると、色々考えてしまうけど、他の過ごし方が思い浮かばなかった。

ブランコに乗って適当に過ごす。こんなことしていると地元の不良に絡まれて、仲間になって、俺も不良になってしまうのかもしれない。

 

そんなことを考えながら、俺は空を眺めていた。

「大輝。」

その名前を呼ばれるだけで俺の体はびくんと震えてしまう。今俺に声を掛けるのは、きっと重たい話しをする人だけだろうから。俺は変に緊張して、振り返る。

「あ・・・先輩・・・。」

俺は慌てて立ち上がる。

そこにいたのは國保先輩だった。

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