ペア


「お前は・・・信田と。」

一成先輩のその言葉を聞いて、春樹はさらにだるそうな顔をする。

「はぁ・・・俺他の先輩がいいんすけど?」

本当に春樹はどうかしている。よくそんな細い身体で、こんな化け物みたいな体をした先輩たちに文句が言える。その空気の読めない言葉に、1年達は冷や汗をかく。しかし、動揺しているのは1年だけのようだった。2年生はまるで春樹の言葉が耳に入っていないようで、肝心の信田先輩を見てみると、無表情だった。朝から静かだったけど、朝と変わらない感じ。信田先輩なら一成先輩に文句の一つでも言えるはずなのに、何も言わない。むしろ涼しい顔で立っていた。

「お前には2年をもう一人つける。それでいいだろ?」

「あ、それなら!」

「え?」

俺は思わず声を出す。2年生は全部で6人いる。俺はてっきり一成先輩は皆をまとめる役だからペアにならないのかと思った。最初に剛のペアにならない時点で。

春樹は満足そうだ。

「大輝。」

「・・・あ、はい!」

俺の名前が呼ばれる。

「お前は俺とペアだ。」

「はぃ・・・。」

俺はまともに返事もできずに戸惑ってしまった。俺の返事を聞かないまま話しは進む。

「練習はそれぞれ好きな場所で行って構わないが、男闘だけは体育館でやること!外ではやるなよ!」

当然だろう。

「じゃあ、練習は明日からだ。今日はそれぞれのペアと打ち合わせして、夜の8時に夕食だ。解散!」

 

 

俺は一成先輩に呼び止められ、そのままグラウンドに残った。他の生徒はそれぞれのペアと散っていく。剛が去り際俺をちらりと見た。俺はなんだか申し訳なくて、少し俯いてしまった。

春樹は信田先輩を無視してもう一人の先輩に馴れ馴れしく話しかけていたが、あまりいい顔はされていなかった。

 

「まあ、座れよ。」

俺はグラウンドにそのまま尻をついて座り込んだ。

「さて、練習どうすっかな。」

一成先輩はなんだか恥ずかしそうに頭をポリポリ掻きだした。少し下を向いて。

「あ、あのさ。」

「・・・はい。」

なんだか変な感じだ。いつもはお兄ちゃんみたいに優しく、乗り良く接してくれるのに、なんだかおかしな感じだった。考えてみればいつも他の皆と一緒だったから、2人で話すのは初めてだった。

「俺で・・・その・・・。」

言葉に詰まっている。初めて見る姿だ。

「俺で良かったか?」

一成先輩は苦笑いしながら聞いてきた。

「え?」

俺は質問の意味がわからなかった。

「いや、その・・・他の奴に教えてもらいたかったかな・・・って・・・。」

「あぁ・・・いや・・・・・・そんなことないっすけど・・・。」

『なんなんだ、このやりとり・・・。』

正直なんでそんなこと聞かれるのかもよくわからなくて、心の中でそう思ってしまう。

「ああ・・・そんなことない・・・か。」

「一成先輩こそ、剛に教えたかったでしょ?」

俺は少しでも変な空気を変えようと、わざと普通に振る舞って見せる。

「え?剛?」

「剛が一番懐いてますもんね。」

俺は笑って見せる。

「そう思うか?」

「いや、誰が見てもそうでしょ。」

「はは・・・そっか。お前、本当は誰に教えてもらいたかった?」

一成先輩が苦笑いしている。

「誰にって言われても・・・まだ男闘の何にも知らないし。どの先輩でも教えてほしいですよ。」

「ああ、そうだよな。」

「はい。」

俺がそう返事をした後、一成先輩は黙ってしまう。少し下を向いて、気まずそうにしている。俺はその様子が気になって仕方がなかった。

「あの、どうしたんすか?さっきから。」

「え?何が?」

「いや、何がって、誰に教えてほしかったとか。あれって先輩が決めたわけじゃないんでしょ?」

「え?い、いや、俺が決めたけど。」

「えっ!?マジっすか?先輩センスなさすぎ!」

「え?嘘?なんでだよ!」

「だって剛、絶対先輩に教えてもらいたがってたし、それに春樹と信田先輩はまずいっすよ!」

「剛?そんなに?」

「あいつずっと楽しみにしてたんすから!」

「そうなのか・・・悪いことしたかな。でも、水嶋の方は信田から言われたんだよ。」

「え?信田先輩が?大丈夫っすか?あの2人一緒にして。」

「まあ、2年がもう1人いるしな。それより剛怒ってるか?」

「え?あはははは!剛なら平気でしょうけどショック受けてますよ、きっと。今から変わります?」

やっといつもみたいに楽しく話せるようになった。俺は剛と交換を提案した。それほど本気だったわけでもないし、別にどっちでも良かった。むしろ交換してくれる方が良かったかもしれない。剛になんて言われるかわからないし、あんなに楽しみにしてたんだから一成先輩を譲りたかった。

「それは駄目だ!俺はお前に教えたい!」

急に一成先輩がマジになる。

「え?・・・ああ、はい。お、お願いします。」

俺は少し驚いてしまう。

「ああ、いや、だから、お前素質あるし!」

俺に教えたいとか、素質があるとか、やっぱり何かおかしい。

「素質?そんな風に思ったことないですけどね。」

「とにかく!明日から練習な!練習内容は俺が適当に考えてやる!じゃあな!」

急に怒鳴るようにそう言うと、立ち上がり行ってしまった。俺は唖然と後姿を見つめるだけだった。

「・・・適当にって・・・。」

 

 

夕食の時、剛は先輩と遅れてやってきた。剛のことだ。多分明日まで待たずに教えてもらったんだろう。先輩も剛も汗だくだった。俺とは遠い席に座っていたから話せなかった。

 

そのまま風呂に行って、部屋に行くまで剛と話せる機会が無かった。俺よりも一成先輩と話せてるかが気になったけど。まあ、別に喧嘩したわけでも何でもないし。俺は気にしないことにした。

部屋に行くと剛はさっさと寝てしまっていた。一成先輩に聞いたら、話してないみたいだ。

『いじけてんのかな・・・。』

きっと明日になればいつも通りに戻ってると思った。

 

そして、翌日。

朝食前に、俺と一成先輩は体育館に来ていた。

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