試合


夏休みが明けてすぐ、男闘は試合がある。

2年、3年は毎日必死に練習に励む。1年はと言うと、ほとんど構ってはもらえずまた筋トレに逆戻り。先輩たちとも接する機会はほとんどなくなってしまった。

 

合宿に行ってからなんだか俺の周りはいろいろと変わってしまった気がする。それを感じているのは俺だけかもしれないけど、剛はなんだか余所余所しくなったし、一成先輩はなんだか皆の前だと俺に対して冷たい。多分俺も。でも2人きりの時はいつも通りだ。

それに俺は勝手に剛と一成先輩の間で気まずさを感じていた。2人が一緒にいる場所ではなんだか遠慮してしまう。剛が先輩と嬉しそうに話す姿を見るとなおさら。

 

春樹だけは相変わらず真面目には来ない。信田先輩との一件があって以来、まともに口をきくこともなく、姿を見かけていない。

 

夏休みが終わって2週間くらいはそんな日々が続き、そして試合の日が来た。

 

 

男闘は他の部活とは違い、全国的に見てもそれほど部活動のある学校は多くない。だから予選や県大会はない。いきなり全国大会だ。とはいえ、それほど多くない分3日くらいで全試合が終わる。

個人戦がトーナメント方式。団体戦も。団体戦は1チーム5人だ。各校1チームまで。

うちの高校からは3年生の5人。國保先輩含む5人だ。俺はほとんど話したこともない先輩たちだ。

 

試合は東京で行われる。俺にとっては初めての都会だ。1年全員、バスの中から田舎者丸出しで外を眺めていた。でも先輩たちはそんな空気でも無くて、めちゃくちゃピリピリしているのがわかった。だから小声で騒いだ。

もちろん、旅行じゃないから、どこに寄るはずもなく、だけどホテルだけは旅行で使うような大きなホテルに泊まらせてもらえた。

到着すると1年だけ別部屋に入れられた。俺達は和室だ。狭い部屋に無理やり。きっと布団を敷けばぎゅうぎゅうだろう。試合に出る2年、3年はもちろん大部屋。

そして会場の下見にも行った。学校の道場とは違う大きな体育館だった。多分柔道とかで使うような畳みの体育館。緑の畳みの周りにピンクの畳みが敷かれている新しい綺麗な体育館だ。すぐ隣の施設には50メートルプールもあって、俺達は無駄に興奮しっぱなしだった。

久しぶりに見た春樹だけは俺達よりも少し後ろから何も言わずに付いてくるだけだった。

 

先生たちが受付を済ませると、試合で使う褌が配られた。

試合は褌で行われる。まずはお互い股間を引っ張り出すところからだ。

 

 

その日は夜に先生から試合に向けての言葉があり、皆で宴会をした。もちろん酒はない。

明日はいよいよ試合いだ。

 

 

翌朝早く、2年、3年は試合のために先に会場入りしていた。俺達は応援用に持ってきたメガホンや鉢巻きを付けて10時ごろ会場へ入った。

すでに開会式や各選手の検査などが行われ薬物の使用や道具の装着が無いかなどを調べられた後だった。体育館は褌の筋肉に覆われた男だらけ。顧問や応援も女はいなかった。

男闘なんて女に見せられない。

 

俺達の高校の応援は俺達だけだから、先輩を励ましたくて試合前の控室に会いに来た。春樹だけは来ていないが。

控室ではそれぞれの学校ごとに固まって陣取っていて、ほとんどの選手が褌姿で顧問や先輩と打ち合わせをしていた。緊張感が伝わってくる。

俺達は先輩たちを探す。控室の隅の方にいた。俺達は少し嬉しそうな顔で近寄ると一成先輩がこっちに気づいてくれた。

他の先輩たちも俺達に駆け寄ってくれる。

「岡井が1試合目なんだ。今は近寄らない方がいい。」

信田先輩がそう教えてくれた。岡井先輩は合宿で剛をしごきあげていた強面の先輩だ。真剣な顔で先生のアドバイスを聞いていた。

やっぱり試合前は話しかけない方がいいと思い、俺達は控室を後にする。

 

出て行こうとした時に、一番後ろの俺に一成先輩が話しかけてきた。

「大輝!」

他の1年は先輩に気が付かず、行ってしまう。

「俺はお前のために頑張るからな。」

先輩は褌姿で俺の耳にそう囁く。

「え?!」

俺は言われ慣れていないそんな言葉に顔を赤らめる。先輩は意地悪そうに笑いながら奥へ戻って行った。こんなところでそんなこと言われて、剛に見られたら殺される。そう思いながらも内心は少し嬉しくもあった。

『な・・・何で喜んでるんだよ、俺。』

 

 

いよいよ試合が始まる。ピンクの畳みで囲まれたいくつもの会場でそれぞれ試合が始まる。俺達は岡井先輩の試合がある場所の一番近い二階席に座った。春樹も来ている。座って腕を組み、睨むように試合を見ている。一応ちゃんと見るみたいで安心した。

 

1試合目。岡井先輩の相手は、岬野高校3年 尾添 惇(おぞえ まこと)という生徒だ。

岡井先輩はツーブロックの頭に綺麗な筋肉。本当にスポーツマンらしい外見だ。それでいてきりっとした顔は男でも惚れそうなくらいかっこいい。普段は静かで、1年とはほとんど話さない。合宿では剛とペアだったけど、めちゃくちゃ厳しそうで、いつも剛は怒鳴られてばかりだった。普段はあんなに静かなのに、意外だ。でも怖そうな雰囲気はあった。笑ってる顔だって見たことが無い。

 

一方相手は岡井先輩より一回り体の小さい3年生。小さいと言っても胸板は大きく盛り上がり、腕も太い。腰回りは丁度よく脂肪が乗っていて、腹筋がうっすら割れている。お尻も丸くて全体のバランスがちょうどいい。小さく見えるのは単純に身長が低いからだろう。

 

お互いに会場の端に立ち、一礼すると、中央まで歩み寄った。柔道の試合見たいだ。手を伸ばせば届きそうなくらいまでやってくると、審判がやってきて両者の手にオイルを塗る。

それを掌に伸ばす。足元にはオイルの入った桶が置かれている。

両者の手にオイルが塗られたことを確かめると審判が離れ片手を挙げた。そして振り下ろすと同時に叫ぶ。

「始め!」

 

 

意外なほど試合はあっさりと始まった。他の試合をふと見ると、審判の合図とともに柔道の試合さながら気合を入れる声が響く。「おっしゃー!」とか「オラァ!」とか、まるで格闘技だ。

岡井先輩の相手も同様に叫ぶ。

「おおぉっす!」

気合を入れたのだろう。全身に筋肉が同時に浮き出た。

選手のその言葉と同時に応援席からは声援が飛ぶ。

試合が行われているすぐ横には、一成先輩はじめ、他の先輩たちが俺達よりも近い場所で応援している。

「岡井!負けんな!」

「行け!」

力強い声援を飛ばす。俺達も負けずに声援を送った。

 

 

でも俺は、声援を送りながらもなんだか興奮してしまっていた。初めて見る試合に、これからどんなことが始まるのか、どんなことが行われるのか、それが気になって、考えれば考えるほど、なんでか血が騒いだ。

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