春樹も信田先輩も、まるで相手の股間を潰すかのように、お互いの股間をジャージ越しに押し付け合う。ローションを塗り込むように。いや、むしろ塗り込もうとしているよりも押し付けるだけで逝かせようとしているみたいだった。
腰は隙間が無いくらいぴったりとくっついている。目の前にお互いの顔があるのに殺気に満ちた視線で睨み合っている。
「さっさとけりつけてやるよ。」
それほど時間は経っていないがローションは染み込んでいるのだろう。春樹がそう言いだすと腰を離し、いきなりジャージの中に手を入れて、股間を乱暴に出した。
「こっちのセリフだ!」
信田先輩も春樹の股間を同じように引っ張り出す。お互い完全に勃起している。
股間を引っ張り出すと、お互いに容赦なくしごき始める。片手で思い切り、ただひたすらに。
「どうしたどうしたぁ!オラオラ!来いよ!先輩!そんなんじゃまた負けちまうぜ!」
春樹はさっきまで切れていたのに、試合が始まるとまるで楽しんでいるかのようだ。
「うっせぇ!」
信田先輩は相変わらず切れている。事あるごとに怒鳴り、顔を真っ赤にしていた。お互い片手を相手の首に回し、もう片方の手でひたすらしごく。信田先輩は筋トレのかいあって大きくなった体に大粒の汗を流し、筋肉を浮き上がらせていた。表情を見ると結構辛そうだ。それに対して春樹は余裕そうに見える。
『たぶん負ける・・・。』
恐らくそう思っているのは俺だけじゃないだろう。
「はぁはぁ・・・へへ・・・随分・・・きつそうだな。」
「・・・。」
「早く楽に・・・なれよ・・・はぁはぁ。」
「・・・。」
信田先輩は春樹の挑発に全然乗ってこない。
やはりきついのだろうか。もう逝きそうなんじゃなのか。
「なんだよ・・・さっきから黙って・・・はぁはぁ・・・くっそ、むかつくぜ。」
「はぁはぁ・・・。」
「くっそ!オラオラオラァ!」
挑発に乗らずただ黙って春樹を睨んだまま力いっぱいしごく信田先輩に、いら立ちを露わにする春樹。その表情から余裕が消えていくのがわかる。
ついに2人とも黙ってしまった。呼吸を目の前に感じながら必死にしごく。いつの間にか体育館には熱気がこもり、2人のシャツは汗でぴったりと体に張り付いていた。
沈黙のまま暑い呼吸だけが響く。
無言でしごき続けて、恐らくそんなに経っていなかったと思う。だけど、なんだか空気が重たく張り詰めていて、長い時間に感じた。
春樹もいつの間にか真剣になり、ぴくぴくと眉間にしわを寄せて、腹筋を収縮させ感じているようだ。信田先輩は相変わらず顔を真っ赤にして歯を食いしばり必死にしごく。お互い睨み合う視線は決して外さずに、ただただしごく。
「はぁはぁ・・・。」
「はぁはぁ・・・。」
2人の呼吸だけが響く中、春樹が口を開いた。
「くっそ!なんで逝かねぇんだよ!」
最初の余裕はもうとっくに無くなっていた。悔しそうにそう言うと一層手に力を入れようとするが、男闘部の中でも一番細い春樹だ。
「はぁはぁ・・・くそっ・・・力が入らねぇ・・・はぁはぁ。」
さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、力無くそう言うと手のスピードが少しずつ遅くなり始めた。
「あぁ・・・出ちまう!」
もう手を動かす力もなくなり、ついには信田先輩の竿から手を離す。そして、信田先輩の顔に少しずつ余裕ができる。同時に一気に手のスピードを速めた。
「あああああああーーーーーーーーーー!」
春樹は大きな叫び声をあげると、腰をはげしく動かし、竿の先端から精液を出した。勢いよく出てきたそれは信田先輩の顔にまでかかる。しかし、先輩は手を止めようとせずそのままの速さでしごき続けた。
「ああああああぁあああ!もうやめろ!」
そう言いながら春樹はだらしなく腰を引いた。その勢いで後ろに倒れる。その姿を信田先輩は上から見下すように睨みつける。
2人とも肩を上下に揺らし、呼吸を整える。春樹は床に倒れ俯いたままだ。
「はぁはぁはぁ・・・約束通り・・・これからは部活に真面目に来いよ・・・。」
そう言うと、信田先輩は股間をしまい、体育館を出て行った。
「今日はもうやめだ。お前、筋トレして来い。」
岡井先輩は剛にそう言うとさっさと体育館を出て行ってしまった。剛はとっさのことに何も言えず、岡井先輩の後姿を見ているだけだった。
やがて剛も体育館を出る。ちらりと春樹の姿を見て。
体育館には俺と一成先輩、そして春樹だけになった。
俺は一成先輩をちらりと見る。俺の顔を見て、先輩は小さくため息をついた。
俺はパンツを履いて春樹の元へ駆け寄った。
春樹は体育座りをして、顔を伏せている。
「春樹?」
俺は遠慮気味に名前を呼んだ。
「あ?」
春樹は顔をあげるとだるそうに返事をした。相変わらず感じ悪い。
「はぁ。着替えて来いよ。」
俺はそのふてぶてしい態度に呆れてしまった。慰めてやろうと少しでも思った自分が馬鹿みたいに思えた。結局いつも通りの態度になってしまう。
「ああ。」
しかし、春樹は気のない返事をすると、ぼーっと前を見つめて動かない。
「お前、大丈夫か?落ち込んでんのか?」
俺はぶっきらぼうに聞く。春樹は俺の顔を睨む。
「お前はデリカシーねぇのか。」
「デリカシーだぁ?!なんだよ、ちょっと慰めてやろうと思ったのに。わかりずれぇよ。落ち込んでんのか?落ち込んでないのか?」
「だから、その質問やめろよ。だから童偵なんだよ。」
「な?!なんだよ!関係ないだろ、今!」
「あははは。」
春樹は笑うと立ち上がる。そして、今まで見たことないほど真剣な顔になる。
「信田先輩、練習したんだな・・・。」
「へ?」
いきなり、春樹がそう言った。俺は訳がわからず、春樹の顔を見つめる。春樹は信田先輩が出て行った体育館のドアを見つめていた。
そして、次の瞬間何事もなかったかのように出ようと歩きだす。
「え?おい!春樹!次から部活、真面目に来んのか?」
俺は去り際の春樹に呼び掛けた。
「さぁな。」
春樹は振り向きもせずそう言うと、出て行ってしまった。
「・・・さぁなって。」
もうよくわからない。
振り向くと一成先輩もいつの間にかどこかへ消えていた。
「うそだろ・・・。」
結局体育館には俺一人。俺は大きく溜め息をついて、一成先輩を探しに行った。