闘争心と恋


グラウンドには走る剛の姿。いつもよりも早足で、まるで焦るように走っていた。俺はそれをグラウンドの端でただ見つめていた。

「お疲れ。」

そこに一成先輩がやってくる。

「あ・・・どうも。」

俺は朝から納得できずにいた。あんな乱暴にするなんて。それに態度だって急に変わった。練習になると人が変わるのかもしれない。確かに男闘は気性の荒いスポーツだけど、あんな風に罵倒するなんてあんまりだ。

さっきは拍子抜けしたが、思い出すごとにだんだん腹が立ってきた。

俺はついつい愛想なく返す。

「さっきは悪かった。」

「え?」

いつもの優しい先輩だ。本当によくわからない人だ。

「お前に足りないのは闘争心だ。」

先輩は俺の隣に座ると唐突に話し始めた。

「男闘で一番大切なのは負けず嫌いなこと。相手を逝かせようとする闘争心が大切なんだ。剛とお前達の違いはそこだよ。」

「闘争心・・・。」

朝から俺を罵倒した理由が分かった。

「だからわざとけしかけた。悪かったな。でも忘れるな。男闘する時にはいつも思い出せ。自分が童偵だってこと。」

先輩はそう言うと俺の顔を覗き込み意地悪に笑った。

「ひっでぇ・・・。」

「あははは。許せ。」

俺は子供みたいに笑う先輩をまじまじと見つめた。

「・・・確かに、俺には闘争心なんてないかも。」

俺は剛を見る。

「中学からずっと、誰かに負けたくないなんて思ったことないですし。」

先輩は何も言わずただ俺の話を聞いていた。

「剛って・・・・・・すげーな。」

「ああ。あいつはがんばってる。」

「はぁ・・・。」

俺は、なんだか落ち込んでしまった。

中学の時と同じように何となく部活に行って、何も感じることなく、何も期待せずに、何の目標もなく今まで通り過ごせばいいと思っていた。今までだって誰かが何かを求めることなんてなかったし、俺に期待する人もいなかったし、周りもそんな連中ばかりだった。俺自身も期待されることを望んでいなかった。

それなのに・・・。

「剛は、男闘部に入ってからどんどん先に行くような気がするんです。」

俺は急に耽ってしまう。

剛は今までと同じではない。努力して期待されることを望んでいる。必死に頑張っている。周りが見てもわかるくらい一生懸命だ。

俺は剛を見て一気に自分に自信をなくしてしまった。

「あいつは確かに、前に進んでる。」

一成先輩も静かに言う。

「あんなに何かに一生懸命になれるなんて・・・なんだか羨ましいです。」

「大輝は?どうなんだ?」

「・・・俺は・・・。」

言葉に詰まってしまう。

「俺には・・・・・・何もないんですね。」

その瞬間、俺が今まで目を背けていたことを、俺自身認めたような気がした。正直、すごくショックだった。

そう。俺には何もない。しばらく、俺は放心状態だったと思う。何も話さず、何も考えず、必死に走る剛を見つめていた。やがて剛は止まり膝に手をついて息を整えると、体育館に戻って行った。

 

 

俺と先輩二人だけになる。昼前の日差しが強いグラウンド。俺達がいるのは木陰だ。ここにいればまだ涼しい。

「大輝。」

先輩も、多分俺に合わせて黙っていてくれた。そんな先輩が静かに口を開く。俺は返事もせずにぼーっとしていた。

「俺と・・・・・・付き合うか?」

俺の脳内で先輩の言葉がゆっくりと整理される。

「・・・・・・へ?」

言われた言葉をちゃんと理解するまで時間が掛かった。俺は先輩の方を向き不抜けた返事をする。

先輩はそれ以上何も言わずにまっすぐ前を向いている。俺は未だに理解できず、先輩の横顔を見ながら考えていた。

「あの・・・・・・付き合うって・・・。」

なんて質問をすればいいのかもわからない。

「俺の恋人になるか?ってことだよ。」

一成先輩は正面を向いたまま、しかしさっきよりも真剣な表情ではっきりと言った。

「こ・・・恋人?!」

「バカ!声がでけぇ!」

俺は思わず大声で聞き返す。一成先輩はそんな俺の頭をパチンと叩いた。

「す・・・すいません・・・。だけど・・・恋人って・・・いや、俺男ですよ?」

俺は急にパニックになって、なぜか焦り始めた。

「お前、顔真っ赤だぞ?」

先輩は俺の顔を見て呟く。なんで俺がこんなに焦らなくちゃいけないのか。その言葉を聞いて今度は腹が立ってきた。

「それは!・・・先輩が変なこと言うからですよ!」

俺は思わず立ち上がる。

「恋人って・・・。」

「だから、声がでぇよ。俺だって恥ずかしいんだから何度も言うな。」

先輩は小さく怒鳴る。

「先輩・・・本気?」

俺はやっと先輩の言葉を理解し始める。しかし、未だによくわからない。

「先輩って、ホモですか?」

「違う。違うけど・・・俺はお前が好きだ。」

「いや、好きだって・・・。」

「分かってる。俺達男同士だしな。それに男闘部は恋愛禁止だ。俺だって抑えようとしたんだ。でもお前のこと見るたびに・・・その・・・抱きしめたくなる。」

「だ・・・抱きしめたく?!」

先輩も恥ずかしそうにしている。

「はぁ・・・もうよくわかんないっす。」

俺は座り込んだ。さっきまで自分の情けなさを嘆いていたのに、急に告白されて。しかも筋肉隆々の男で、同じ部活の先輩だ。さらに、その先輩は剛が憧れている先輩。俺はもう考えるのも嫌になり座り込んで思考を止めた。

「悪い、いきなり。今は練習のことだけ考えればいい。俺の気持ちだけ知っておいてくれれば。合宿中は手加減しないからな。それに、今日覚えた闘争心は、忘れるな。今日はもう終わりだ。明日は一日中男闘だ。もし今日覚えたことを忘れたら、覚えてるよな?自分が童偵だってこと思いさせてやるからな。」

先輩はそう言うと意地悪ににやりと笑い行ってしまった。

 

 

俺はなんだか、朝を思い出す。先輩に寸止めされた朝。

なんだか同じ気持ちだ。なんていうか・・・消化不良・・・。

まだ昼前だ。俺はもやもやした気持ちを抱えながら昼を食べ、暑いからプールで泳いで夕飯を食べ、そして寝た。剛は練習に明け暮れ朝以来一言も言葉を交わさないままだった。他のクラスメイトも1日練習していたみたいだ。なんだか俺だけ、皆に置いて行かれたような気がした。

 

俺は闘争心が無い。剛よりも劣っている。俺には目標も一生懸命になれることもない。しかも童偵・・・。それに加えて、一成先輩に告白された。なんだか、今日1日でいろんなことがありすぎた。今まで何も考えずにただ楽しいことだけを選んで生きてきたのに、今日突然自分の未熟さを突き付けられた。とてもショックだったし、なんだか傷ついた。

 

明日から一成先輩とどう接すればいいのか。すごく不安だった。

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