本当に大切な人~粉雪


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今夜は雪になるらしい。昼間はあんなに晴れていたのに、夕方になるにつれ雲が出てきた。冬らしい空色。

こんなに寒いのに、自転車屋の飲み会がある。

働き始めてからほとんど飲み会には参加せずに来たが、無理やり誘われて参加することになった。

本当は行きたくなかったのに、一日ベッドで空を眺めて、いろいろ考えてしまって、女将さんから電話があって。あまりにも長い一日に俺はすっかり疲れてしまい、いつの間にか飲み会の時間が来るのを待っていた。そして時間になると、早々に自宅を後にした。

 

ここ最近、正直仕事が楽しくない。私生活も。
毎日のように寂しさに襲われて、思い出す。憂鬱な日々を送っているのに笑って見せる自分がなんだか馬鹿みたいに思えてきた。

こんなんじゃよくないと思いながらも他にどうすればいいのかわからず、ただ仕事に行き、自宅に帰り、昔を思い出しては寂しさを堪えるだけの生活。

俺の人生はこんなはずじゃなかった、そんな意味のない後悔を繰り返していた。

 

 

悟と合コンに行ったあの夜以来、俺は普通に仕事をしていた。悟も素面の時は何も変わらない。いつも通り休憩の時はたわいもない会話をして、俺は寂しさを隠しながら明るく過ごした。

 

彼氏とはだんだん距離が離れて行くのを感じながらも何もできずにだらだら付き合っていた。メールの数も少なくなった。会いに来る頻度も。俺はまた前みたいに愛してくれることを、優しい言葉を期待しながら、電話やメールをする度に不満を撒き散らし、彼氏はいつも通り黙ってそれを聞いているだけ。何も伝わらない時間を過ごす。

そうしてだんだん俺達はより一層壊れて行った。

どうするのが良かったのか、どんな結末がふさわしかったのか。何も分からないまま、何もできないまま、ただ寂しさだけが残って行った。

 

 

付き合い始めて10ヶ月くらいの頃。

1か月ほど彼氏とは会っていなかった。

俺は毎日のように別れることを考えていた。だけど、どうしても諦めきれない自分がいる。

俺は家に帰って、電気も付けず、エアコンも付けず、寒い部屋の中で携帯の画面を見つめていた。

彼氏に朝、送ったメールの返事はまだない。もう、仕事も終わっている頃だ。
俺はただじっと待っているだけ。ずっと前から、俺はこうして待っているだけ。それも、その頃には限界になっていた。

 

そして、俺はメールをした。

『たすけて』

4文字、それだけを送った。限界を感じた自分の気持ちを、それ以上の言葉で伝えることができず、俺の本当の気持ちだった。優しくされたかったし、愛してほしかった。

 

でも、何よりこの辛く苦しい時間から救って欲しかった。他の誰でもない、彼氏に。

 

すぐに電話が掛かって来た。メールは返せないのに、電話がすぐに掛かってくる。

「どうした?」

いつもの優しい声だった。

「・・・」

俺は何も言えずに、ただ電話越しに彼の声を聞いている。

「成樹?どうしたの?」

言いたいことが沢山あった。言ってほしい言葉もたくさんあった。いつだって。それなのに、何も言えなくなって、気が付いたら自然と涙が溢れてきた。零れる涙は止めることができず、息も苦しくなるくらい俺は泣いていた。

「・・・・・・・・・会い、たい。」

俺は泣きながら、やっとの思いで言葉を絞り出す。

自分でも驚いた。大人になってから泣いたのは初めてだった。

「成樹・・・少し成樹も発散した方がいい。俺みたいにジム通ったりさ。仕事だから日曜日まで待てる?日曜に会いに行くから。」

彼氏は俺がどうして泣いていたのか知っていたのだろうか。俺の言葉を何も聞かずに、電話越しに泣いている俺に、淡々と冷静にそうアドバイスしてきた。

その言葉に、もう涙は止まっていた。

 

同時に俺は諦めた。

 

「・・・・・・うん。」

「じゃあ、日曜にね。」

そう言うと電話を切った。

 

彼氏が俺を救ってくれることはなかった。俺の言葉は一つも届かなかった。今まで受け入れたくなくて、逃げてばかりいた現実が目の前に突き付けられたのに、俺は驚かなかった。きっと前から感じていたんだと思う。知っていたんだと思う。

俺達はもう終わりなんだ。いや、もう終わっていたのかも知れない。

 

俺は底が見えないくらい深い穴に落ちて、いつの間にか一番下まで来ていた。光も見えない、暗い穴の底に落ちてしまった。それが現実なんだと、その時思った。

 

 

自分が今まで守って来たものも、愛していた人でさえ、もう俺の手には何もない。俺は一人なんだ。

 

彼氏との電話を切って、俺は電気を付けないまま、寒い部屋の中でただ座っていた。

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次の日、彼氏からメールが来た。

『日曜日はジムに行ってから会いに行ってもいい?夕方には会いに行けるよ。』

俺がそのメールを受け取ったのは会社の喫煙所。俺はメールを返すこともなく、携帯を閉じた。

本当に寂しかった。俺が愛したあの人はもういない。自然と顔は俯き、溜め息が出た。

『もう別れてほしい。』

その日の夜、俺はそう返した。

 

 

彼氏からは何も返信は来なかった。日曜日も家に来ることはなく、連絡もない。俺は覚悟していたが、一日中携帯を見つめていた。仕事は休み。朝からずっと携帯を見つめたまま何もせずベッドに横になっていた。

その時、携帯が鳴る。画面に表示されたのは悟の名前。

「もしもし?」

「おう、お前今日休みだろ?何してんの?」

「いや、別に何もしてねーよ。」

格闘技の誘いかと思った。体育館での練習だ。

「ちょっと付き合えよ。」

そんな気分じゃなかった。俺は女々しく、彼氏からの連絡を待っていたから。

「どっか行くの?」

「ああ。」

本当は行きたくなかった。でも、気が紛れるかと思った。

「体育館だろ?いいよ。」

「じゃあ、いつもの駅で。」

俺は支度をして出かける。外は寒かった。

 

 

駅で会った悟はほとんど荷物を持っていなかった。

「あれ、なんだよ。体育館いかねーの?」

そう言う俺に、悟はいつもの不愛想な顔で言う。

「呑みに行こうぜ。」

そう言って歩き出した。すっかり体育館に行くと思っていた俺は、しばらくあっけにとられていたが、俺の文句を聞く暇もなく歩きだした悟を急いで追いかけた。

 

「今日は俺がおごってやる。」

店に入るなりいきなりそう言う悟。

「あははは。お前にそんな金ねーだろ。」

俺は笑って見せる。

「嘘だよ。割り勘な。」

悟は恥ずかしそうに笑って見せる。

「なんだよ、その嘘。ばればれだよ。」

「うるせぇ。」

俺達はそんなたわいもない会話で適当につまみを頼みながら酒を飲んだ。

俺はいつも、それほど呑まない。呑んでも酔うことはない。昔から酒には強い方だった。酒が無くても明るく振る舞えたしチャラく見せることもできたし、馬鹿みたいなノリにも割と付いて行けた。そうやって周りと付き合ってきた俺には当たり前のことだった。

 

その日だって最初はいつもみたいに明るく話していた。それなのに、なんだかいつもより寂しくて、誰かにすがりたくて、呑み過ぎてしまった。酔っ払って俺は弱音を吐いていた。

「別れようって言った・・・。俺さ、気がつかなかったよ。もう俺のことなんかとっくに好きじゃなくなってんだよな。いや、気づいてたのかな。ほんとにさ、馬鹿だよな、俺って。」

 

本当は泣きたくて、辛くて、助けてほしかった。

 

「本当にさ、本当に好きなんだ。もうこれ以上誰かを愛することなんてないんじゃないかな。こんなときって、皆どうしてんのかな。俺、どうすればいいのかな。」

 

言葉の最後にはいつも笑って見せる。だけど、今にも逃げ出したいくらい、本当の俺は弱くて、卑怯で、情けない男だった。

 

「いろいろありすぎて、お互い傷つきすぎて、もう戻れないよな。わかってんだけど、俺、いつまでも待ってんだよね。馬鹿だよな。」

 

本当は彼氏に、聞いてほしかった。傍にいてほしかった。ただ、寂しかった。

 

「俺は、お前を裏切らないからな。」

 

悟が突然そう言ってくれた。ずっと黙って聞いてたのに、急に口を開いた。

「俺は絶対にお前を裏切らない。」

もう一度、俺の顔を真っ直ぐに見てそう言った。まるで素面だった。俺と同じくらい呑んでいるはずなのに、俺でさえこんなに酔っているのに。

「・・・・・・・・・・・・ありがと・・・マジで。」

 

あの日は、なんだか素直になれた。久しぶりに、俺の声を誰かが聞いてくれている気がした。

 

 

翌日、気が付くと俺は自宅のベッドで寝ていた。頭が痛くて、吐き気もした。昨日の服のまま、どうやって帰って来たのかも覚えていない。隣には悟が寝ていた。

それから悟と一緒に電車に乗って、悟の家の近くの駅まで送って行った。お互い何を話す訳でもなく、ただ黙っていた。別れ際、いつも通りのあいさつを交わし悟は帰って行った。

 

 

俺は考えていた。悟の後姿を見ながら。自分が本当に大切にすべきものが何なのか。俺にとって本当に大切な人は誰なのか。

 

そして、俺は彼氏に連絡していた。

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