最後の会話~粉雪


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自転車屋の飲み会は、小さな居酒屋だ。いつも使う店らしい。

俺は、悟と呑んだあの日のことを思い出していた。自然と表情は暗くなり、話の輪にも入れずにいた。周りはそんな俺に気を使っていろいろ話を振ってくる。友達も俺のことを少し心配しているみたいだった。俺は疲れているだけだと誤魔化すのが精一杯だった。

 

早く一人になりたい。そう思った。来なければよかったと後悔した。

 

 

店の外に出ると、冷たい風が刺さるように吹きつける。春前のこの季節が一番寒い。

皆と別れを告げ俺は一人歩きだした。なんだかとても疲れた。

駅まで歩いているうちになんだかこのまま歩いてみるのも悪くない気がして、しばらく歩いていた。家までは帰れない距離じゃない。

 

すると、ふわふわと雪が降り始めた。それは数分のうちに粉雪になる。俺は思わず立ち止まった。

空を見上げて、思い出したのは空港で見たあの雪。あの日と同じ。同じ雪が降っている。

 

 

悟を見送った帰り道、俺は彼氏に電話した。もう答えは出ていたし、戻るつもりもなかった。

「あのさ、最後に一緒に過ごしたいなって。せめて笑って別れたいからさ。」

綺麗に終わらせたかったわけじゃない。俺なりの、これが終わり方だった。自分なりに向き合おうと思った。

彼氏は了承してくれた。次の日曜日に家に来てくれる。

 

それまで俺は、ひたすら今までのように引き返してしまいそうになる心と闘いながら一週間過ごした。相変わらず無理して笑って見せた。それが唯一、自分を守る手段だったのかもしれない。これで終わりにしたかった。

 

 

日曜日。彼氏は夕方、家に来た。

彼氏は風呂が好きで、外に出かけないときはいつも銭湯に行って、俺の作った夕食を食べて、その後は抱き合うのが決まった過ごし方になっていた。

いつも俺は彼氏のしたいことを考えて、思えば自分がどこに行きたいとか何をしたいとか言ったことがないことに気が付いた。もう少しわがままでもよかったのかもしれない。自分が幼く思えた今までは、それ以上わがままなんて悪い気がして、引け目に感じていたから。

彼氏と銭湯に行って、その日はそこで食事をした。ここ最近は喧嘩というか、一方的に俺が怒って彼氏が黙る、そんな日々ばかりだった。でもその日は、まるで昔のように楽しく話をした。くだらない話ばかりだったけど、こんな些細なことが嬉しくて、でもそれが最後だって思うと悲しくて。だからあまり考えないようにしていた。

本当に、本当に一生懸命考えた、これが俺の答えだった。このまま、また戻れたらいいのにって時々思ったけど、もう戻れないのは分かっていたし、終わらせなくちゃいけないって思った。

 

本当に楽しい時間だった。

 

彼氏と俺の家までの帰り道も昔のような会話をする。お互い別れ話も、今日が最後だってことも話さずに。

時々、彼氏の横顔をまじまじと見つめてしまう。本当は今までのことを話したかった。感謝もしていたし、自分の気持ちも伝えたかった。こんなことあったとか、これが嬉しかったとか、あの日は楽しかったとか。

でもそんなこと言い出したら、また自分があの日に帰りたくなるような気がして、それを求めてしまいそうで、そんな気にはなれなかった。何も思い出していないふりをして、今までのことを思い出していた。きっともう、会うことはないだろうから。

 

もうすぐ家につく。家の前で、彼氏とは別れるつもりだった。

でも、彼氏は玄関まで付いてきた。ちゃんとさよならを言うべきだった。そこで別れるべきだった。でも、彼氏はごく自然に、俺の家にあがる。そして俺もごく自然にそれを受け入れた。頭では分かっていたのに。心に逆らえなかった。分かっていながら、また間違ってしまった。

 

最初はただ話していただけだったけど、どこかのタイミングで彼氏が後ろから抱きついて来て、シャツの中に手を入れてきた。

 

俺達は体を重ねた。今までで一番長いキスをした。俺は夢中で、彼氏も、今までより激しく、お互い求め合った。

 

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一時間くらい経って、電気も付けない部屋の中で俺達は言葉を交わした。お互い裸、仰向けで寝ながら。

「来週また来るよ。」

「本当?」

「うん。」

「・・・俺のこと愛してる?」

「・・・うん、愛してる。」

もう期待なんてしていなかったのに。信じることなんてできなかったはずなのに。その言葉に俺はまた期待した。まさか戻れるなんて思ってなかったから。正直、嬉しかった。本当に嬉しかった。

 

でも、言いようのない不安な気持ちがすぐに襲ってくる。元に戻れないのは明白で、あれだけ考えて、苦しんで出した答えがあったのに。

 

 

付き合っていた頃、家に来る時も、いつも時間通りには来なかった。俺は家でただ待っているだけ。電話もメールもただ待つだけ。お休みのメールは最初のうちだけ。俺の願いは、いつだって叶わなかった。

きっと何でもない、くだらないことに聞こえるだろう。でも小さなことに憧れていた。外で待ち合わせもしてみたかった。小さなことでいいから約束したかった。

でも、いつだって俺は待っているだけ。

 

 

その時だって分かっていたと思う。俺のことをもう愛していないことも、来週もきっと来てはくれないことも。それなのに、どうして、今さらあんな約束をして、あんな言葉を受け入れたんだろう。何もかも分かっていたのに。

 

 

それからまた一週間。今までのように数少ないメールで言葉を交わした。電話は忙しくてしてもらえなかったけど、付き合っていたころのようなメールを交わした。その間も俺の不安は変わらなくて憂鬱だったけど、彼氏が少しずつ努力しているのが伝わって来た。日曜日が来るころにはまた昔の楽しい日々が少しずつ戻りつつあった。不安はどんどん小さくなり、幸せな気持ちになる時もあった。もしかしたら今度こそ・・・、そう思う瞬間もあったと思う。

 

 

日曜日は、午前中に起きた。そして俺はベッドの上で携帯を見つめたまま、顔も洗わずに待っていた。あれほど待つのが怖かったのに。でも今日はずっと待っていよう。そう決めた。

 

夕方になっても、彼氏は来なかった。俺は日が沈んでからやっと電話した。

「あのさ、今日来るって約束しなかった?」

「ああ、ごめん。今家族で買い物に来てて・・・。」

「わかった。」

たったそれだけの会話で電話を切った。

昼を過ぎても来ない時点で、俺を再び不安が襲った。夕方にはもう確信に変わっていて、それなのになんで電話なんかしたんだろう。俺は理由も聞かず、怒りもせず、責めもせずに、たった一言で、電話を切った。

 

 

それが俺達の最後の会話だ。

 

その夜、俺は一人、部屋で泣いた。

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