春~夏の朝日


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東京の街は、あの刺すような寒さから少しずつ開放されていく。春らしい、少し肌寒い風と、温かい太陽。周りは若い人たちがスーツを着て、染めたての不自然なまでに黒い髪の毛を綺麗に整えて、緊張した面持ちで電車に乗っている。

誰かとの別れを惜しみ、誰かとの再会を喜び、新しい出会いに期待する。そんな季節がやって来た。

 

 

俺は、そんな季節のせいか、前よりも穏やかな気持ちで過ごしていた。仕事に行って、帰ってきたら酒を飲んで寝る。最近は自宅でパソコンを開いて仕事をすることもなくなった。ゲイの人たちとはわざと距離を置いていた。誰かと会ったり、連絡を取るようなことは一切しなかった。そう言う場所にも行かなかった。ほとんど興味が無くなっていた。今が楽なんだと、自分に言い聞かせていた。

 

何もしなければ、何も考えない。何も努力しなければ、何も失敗しない。誰も好きにならなければ、傷つかない。

そんな風に考えると、ますます自分が嫌いになって行ったけれど、そんなことにすら慣れていった。

周りの世界はどんどん変わって行く。皆新しくなっていく。皆前に進んでいる。
だけど俺だけ、ずっと同じ場所にいる気がしていた。どこかへ行きたいけれど、どうやってたどり着くのかも、どうやってこの場所を離れればいいのかも、そしてどこへ行きたいのかもわからなかった。

だから、ただ考えないようにしていた。ただ逃げることを選んだ。

 

 

俺は・・・・・・いつからこんな人間になったんだろう。

夜、家に一人でいると、壁を背もたれにして床に座り頭を後ろにつけて、電気も付けずしばらくボーっとしていることがある。時々大きくため息をついて、そんなことをしている自分に再び腹を立てて立ち上がるけど、結局何もやる気が起きなくてベットに倒れ込む。

本当に、毎日無駄に思えた。

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今日もいつものようにベットで横になってボーっとしている。すると、スマホが光る。電話のようだ。誰かから電話が来るなんて珍しい。少しドキッとしてしまう。

俺はスマホを手に取る。
電話は、女将さんからだった。俺は小さくため息をつく。

「もしもし?」

俺は重たそうに体を起こし、電話に出た。今までの自分が嘘のように元気に振る舞う。

「成樹くん?久しぶり!」

女将さんの声は前とちっとも変らず、明るくて優しい。

「お久しぶりですね!」

そう言えば、花火の夜に何も言わず黙って去ってから、初めて話す。俺の番号は花火の時に荷物を運んだりするために伝えたけれど、女将さんは俺に手伝いを頼むこともなく、自分一人でいろいろ用意して持ってきてくれた。電話が来たのは初めてだった。

「今ね、友達の結婚式でこっちに来てるのよ。良かったらご飯でもどう?食べたならお茶でもしない?帰るまでまだ時間あるし。」

もう空は暗い。微かに遠くの空が薄く紫のような青のような色に染まっていた。俺はどこか気まずさを感じながらも返事をする。

「そうなんですか!久しぶりだし、お茶でも行きましょう。どこで待ち合わせします?」

 

 

女将さんとは1時間後に会うことになった。電話を切った後、罪悪感に襲われた。もう帰ろうと決めて、悟のあんなに優しい言葉を振り払って東京に帰って来たのに、こんなにあっさりと悟と同じ街に住んでいる女将さんに会うのが何だか心苦しかった。自分で帰ろうと決めたのに、中途半端な気がして。

 

今の俺は、自分をそんな風に蔑んでも、仕方ないと諦める癖がついた。だから、そんな罪悪感も頭の隅に追いやり、俺は支度をして外に出る。

 

いつもならそんなに寒くないのに、こんなときだけやたらと寒い。

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俺のスマホに電話は掛かってこない。友達も家族も。

周りはもう結婚したり、忙しくしていたり。もうこの歳になると家族ともそんなに電話はしなくなるし。

何より、俺が人と距離を置いているから時間とともに掛かってこなくなった。

 

昔は一晩中、いつの間にか眠ってしまうまでひたすら電話を待っていた。もしかしたら今もそうなのかもしれない。鳴らない電話をこうやってそばに置いて、何かを期待している自分を、ばかばかしいと思う。そうやって孤独を作り出している。

さっきみたいに女将さんから電話が来ると、気が付く。やっぱり自分は期待していたんだと。覚悟について行けていない自分がますます嫌いになった。

 

 

会社の飲み会の帰り、俺は悟からの電話には出なかった。

 

 

なんだか、怖かった。正直に言うと、すぐにでも出たかった。ずっと待っていた。声を聞きたかった。また、俺を好きだって言って欲しかった。でも、怖かった。傷つくのも傷つけるのも、終わってしまうのも、自分の気持ちを伝えるのも、悟とのあんな最後の後に話すのも。

逃げることしかできないのに、女々しく相手の気持ちにすがって、都合のいい時だけ孤独を演じ、これでいいんだと言い聞かせている自分が、痛々しかった。

 

電話に出られなかったあの夜と同じ気持ちだ。

 

 

「若い頃は喧嘩ばかりしてたから、20歳になってやめたけど、もう大人だしね。だから、俺には人の痛みが分かる。」

元彼は俺の隣で、天井を向きながらそう言った。俺達は裸のまま、俺は仰向けの彼氏に寄り添うように抱きついていた。

喧嘩したからって、人の痛みなんかわかるのか。俺は彼氏の言葉に違和感を感じながらも、何も言わず、ただその時の幸福感を楽しんでいた。

 

「人の痛みが分かる。」

そう言った彼氏は、俺の心に大きな傷を残した。人の痛みがわかるのと、人を傷つけるのは違うのかな。痛みを知っていても、傷つけないとは限らないのかもしれない。

いや、痛みなんてきっと知らないんだろう。喧嘩で知りもしない相手に殴られた時の痛みなんかとは、きっと全然違う、別の痛みだと思う。人の痛みを知っている人間は、きっと人を傷つけたりしない。

 

 

俺は、悟を傷つけたんだろうか。俺は悟の痛みを知ってるんだろうか。まるであの日の彼氏のように、俺は悟を傷つけたのだろうか。こんなにも痛みを味わってきた俺は、そんなこともわからない。

 

 

俺には、無理なんだろう。人を傷つけずに生きて行くことは。いや、誰にも無理なのかもしれない。

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