何もできないまま~夏の朝日


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相馬市とは違って、東京はどこへ行ってもいろんな音がしている。電車も車も人も、溢れるくらい多い。

昨日とは違って、天気は良くない。

俺は強めの雨の中、傘をさして居酒屋が集まる道を辺りを気をつけながら歩いていた。昼間なのに人通りや自転車が多かったから。

 

この居酒屋ばかりの中に、元彼の店がある。

会って、俺は何を話すんだろう。そう言えば、そんなこと考えてこなかった。

悟はよりを戻してもいいって言ってた。だけどそんなの俺一人で決めていいことじゃない。それに、俺自身、彼のことをどう思っているのかもわからない。過去を考えると辛いし、何が悪かったのかもわからなかったから悔しかった。俺なりに精一杯愛したつもりだけど、何も伝わっていないのかなって思うと、結構きつい。もちろん今でも。それが俺をいつだって辛くさせてきた。

だけど、実際に会って、また付き合っていた頃の感情を思い出すのだろうか。それともまた辛くなるのだろうか。彼は俺を受け入れるのだろうか。自分の気持ちさえはっきりしていないのに、会いに行ってもどうするんだろうと、ここまで来て思ってしまった。彼の自宅まであと少しだって言うのに。

 

正直、俺達にはあんまり綺麗な思い出や楽しい思い出はない。多分少ない方だと思う。いつだって切なかったし、寂しかった。俺はいつだって怒っていたし、いつだって求めてばかりだった。彼はいつも黙りこむし、すぐに寝てしまう。そんな思い出ばかりだから、きっと俺のことなんてもう忘れているかもしれない。むしろ、会いたくない人間の一人なのかもしれない。

店が近くなるにつれて、そんなことを考え始めていた。

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元彼の店には来たことが無い。住所は教えてもらったけど、一度も尋ねたことはない。実家に住んでるって言ってたし、自宅も兼ねていたから。だから家族にも見られると思って、来なかった。会うのはいつも決まって俺のぼろアパート。

だから、俺はいつも待つだけだった。

 

 

彼の店の前で、俺は傘を上げた。視界が開ける。そこにはもう、店はなかった。

 

 

そこにあるのは真新しいコンビニ。綺麗な外装は最近オープンしたことを物語っていた。

多分自宅も無くなっている。俺はスマホを出して場所を確認した。間違っていないようだ。

 

 

なんだか、すごくショックだった。

 

 

何が悲しいのかって聞かれると、よくわからない。俺が何かを失ったわけじゃないし、これが時代の流れなんだと言えばそれまでだろう。だけど、なんだか辛かった。

あんなに仕事人間だった彼が、自分が守って来たものを失った。それって多分相当辛かったと思う。

 

コンビニの中には入らずに帰って来た。調べてみたら、オープンしたのは俺と別れて間もなくのころだった。俺と付き合っている時には、すでに余裕がなかったのかもしれない。いつだってくたくたになりながら、俺の家に来ていたから。あの頃だって仕事の話はあまりしない人だった。もちろん経営のことなんて聞いたことはなくて、俺は疲れているのに俺のことを頼ってくれないと一方的に彼を責めてばかりだった。

 

そんな俺と別れた後、店はなくなったんだ。

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あれからもう7年。7年も経っていれば、きっと別の仕事をしているだろう。今頃、どこで何をしているんだろう。

周りが冬休みでも夏休みでも、ゴールデンウィークでも、彼はひたすら働いていた。休みの日はストレスを発散するために体を動かして汗をかくのが習慣だった。だから付き合っている後半は俺に会いに来る回数も減って行った。

親の会社一筋。他の会社勤めの経験もなくて、今は週に2日休みがあって、仕事も朝から夕方まで。そうやって今は時間を随分余らせているんだろうか。店がつぶれて、借金とか抱えているんだろうか。好きだったお酒におぼれて体を壊していないだろうか。今は支えてくれる誰かがいるんだろうか。

 

元気なんだろうか。

 

なぜか、そんな心配ばかりこみ上げてくる。

 

 

俺は結局何か出来る訳もなく、もちろん会えるわけもなく自宅に帰って来た。雨に濡れた服を脱ぎ捨て、俺はパンツ一枚でソファに座りぼーっとしていた。

俺は、あの頃から弱かったんだ。恋人からも頼りにされず、支えることさえできなかった。きっと言った所で何もできないのが分かっていたのかもしれない。いや、単純に彼のプライドが甘えることを許さなかったのかもしれない。それでも、俺は自分の弱さが、やっぱり許せなかった。何もできなかったのは事実だった。

 

そして今も。悟に助けられてばかりで、俺は何もできないままだ。

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