再会~夏の朝日


スポンサーリンク
[我武者ら!] の【BUSINESSPACK】[我武者ら!] の【神さん屋不自由】[我武者ら!] の【合vol5】[我武者ら!] の【合vol4】

もう蝉が鳴き始めた。今年も暑い。

 

仕事の休憩中、珍しく悟からラインで連絡が来た。悟の名前が表示された瞬間、俺は動揺してしまう。

悟とは病院以来だった。

「海に行くぞ。」

たったそれだけの文章。まったく。相変わらずだ。なんて返せばいいのかわからない。俺は今でも悟にどんな顔をしていいのか分からずにいたから。

休憩室で煙草を吸いながら、返信を考えていた。すると電話が来る。女将さんからだ。

「皆で海に行くんだけど、成樹君も来るでしょ?悟ちゃんが誘えって。悟ちゃんから連絡来た?」

女将さんはなんだかわくわくしているような口調だ。

「ああ、はい。さっき。」

俺は突然のことで、返事に困ってしまった。

「皆久しぶりに会えるの楽しみにしてるわよ!成樹君サーフィンするんですってね!」

「サーフィン?」

「悟ちゃんが一緒にしたって!」

「え?悟と?ああ、いや、あれは無理やり連れて行かれて、俺は見てただけですよ。」

「え?そうなの?あははは!やだぁ!勘違いしてたのね!」

本当に楽しそうだった。

そんな楽しそうに話されるとなんだか断りづらくて、俺は行くことになった。

 

正直、乗り気じゃなかった。悟と花火の日に別れてから、病院で久しぶりに会って。あの時は少しだけ普通に話したけれど、俺の中では何も変わっていなかった。もう会わないって決めたのに。こんな風に誘われると会うしかない。会えば会うほど辛い自分を、これ以上ごまかすのは難しかった。

 

 

悟に再会してから、俺はどんどん自分が嫌いになって行った。昔も嫌いだったけど、時間が経つとともに落ち着いて来て、それなのに悟と居ると自分の弱さが手に取るように分かるから、俺は昔よりも嫌いになっていく。

そんな自分をどうすることもできなくて逃げてしまう。悟は俺のことを知っている。ちゃんと見てくれる。逃げてもきっと責めないだろう。傍にいると安心するのも事実だ。だからこそ、悟と一緒にいるのが怖かった。いつか終わるぬくもりなら、最初からない方がいいと思ってしまう。背中を向けられた時の辛さを知っていたから。

 

だけど、約束してしまった。海に行けば悟もいる。気が重かった。

俺は、その日、悟からのラインには返信しなかった。どうしていつも悟を傷つけるようなことをしてしまうんだろう。

 

俺はまた逃げている。

スポンサーリンク
[我武者ら!] の【合vol3】[我武者ら!] の【合vol2】[我武者ら!] の【合】[我武者ら!] の【大好きな人】

 

 

起きた時にはすでに待ち合わせの時間だった。俺は慌てて、女将さんに電話する。

「すいません、今起きて。後で行くんで、先に皆で行ってください。」

女将さんは咎めることもなく、俺の心配をしてくれた。

「ゆっくりでいいのよ。」

何度もそう言っていた。

 

 

相馬市まで4時間。ろくに朝ごはんも食べず、髪の毛もセットせずに帽子でごまかして、荷物も最低限水着とタオルくらいしか持っていなかった。気持ちのいいくらい晴れていたけど、暑い。まさに海日和だろう。

 

 

新幹線からの景色はなんだか懐かしかった。2回目の時は夜だったから、去年の夏以来だ。まるで遠い昔のようであり、昨日のことのようでもあった。

なんでまたこの景色を見てるのか。複雑な気持ちだ。

 

それから数時間、俺は新幹線と電車に揺られ、寝起きが悪かったこともありいつしか寝てしまっていた。

相馬駅に着くころには昼を少し過ぎていた。

 

 

俺は駅で背伸びをして、タクシーを呼ぶ。女将さんから聞いた海岸の名前を告げて、車が走り始める。

俺は窓から流れる風景を見つめていた。

自然と、居心地が良かった。この前はゆっくり窓の外なんて眺めていなかったから。単純に田舎の空気がおいしいだけなのかもしれない。

都会にいるといろいろ考えてしまう。出会いも多いし、どこか探せばその場だけ自分を肯定してくれる人にも出会えるだろう。逃げ道がたくさんあった。だけど、逃げている自分が嫌いだったから、辛い思いしかしていないと思う。窓から景色を眺めながら、俺はここの人たちが少し羨ましくなった。

スポンサーリンク
[我武者ら!] の【神さん屋。4 性懲り】[我武者ら!] の【ばっかすの盃#3】[我武者ら!] の【ばっかすの盃#2】[我武者ら!] の【ばっかすの盃】

 

 

俺は海岸から少し離れたところで降ろされる。これ以上は車では進めないらしい。

お金を払い、外へ出ると熱風が一気に襲いかかってくる。本当に暑い。

 

俺はしばらく道を進む。草木が生い茂る細い道をひたすら進むと、やがて海の音が聞こえてくる。上り坂を登ると、開いた道に出て海が顔を出した。

ビーチはいたって普通で、特別綺麗なわけではないけど、広い。俺が出た所には海の家が2件ほど。人もまばらだ。一見この辺りにはいないみたいだ。見渡せばずいぶん遠くまでビーチが続いている。遠くの方に海の家も見える。こんなに広いんじゃ探すのはきっと大変だろう。

女将さんに電話すると、詳しい場所を教えてくれた。海の家を目印に皆がいる所へ行くことにした。もう先に海に来ていて、昼を食べているらしい。まだ食べ始めたばっかりだから早くおいでと言ってくれた。

 

俺は近くで女将さんが言っていた海の家の場所を聞く。ここからは少し歩くようだ。仕方ない。

 

 

俺の体は全身汗でびしょびしょだ。来ているシャツが体にぴたりとくっついている。まるで砂漠を歩かされているような気分だった。目の前に海があるのに入れない。あんなに遠くで降ろしたタクシーの運転手を恨む。

 

しばらく歩いていると人がそれなりにいるビーチが見えてくる。あそこかもしれない、そう思ったが、女将さんや悟らしき人影は見えない。

近づいて行くうちに気が付いた。競泳用のブーメラン水着や、ボクサー型の水着、さらには褌なんかも履いている男たちばかりだった。皆それなりに体を鍛えていたり、丸々と太って髭を生やした大男がいたり。

多分ゲイビーチだ。周りは茂みに囲まれていて、少し隔離されたような場所だった。男同士、何の迷いもなく手をつないだり、いちゃついたり。まるで日本じゃないみたいだ。普段我慢している分ここでは気を使わず開放的に、自分らしくいられるのかもしれない。

 

なんだか、懐かしかった。どこのビーチだったかはもう忘れた。元彼と過ごしたゲイビーチのこと。嬉しい思いもした反面、寂しい思いもしたあの日のことを思い出した。

 

 

俺は辺りのゲイたちに気を取られることなく、ごく普通に通り過ぎようとしていた。しかし、視線を感じる。あまり気分のいいものではない。

 

「成樹?」

その時、後ろから声を掛けられる。悟達がこんなところにいる訳はないと思ったけど、聞き間違いではないと思い、振り返った。

一瞬、誰だか分らなかった。体が大きくて、分厚い筋肉に覆われている。色が真っ黒で、白いボクサー型の水着を着ていた。恥ずかしそうに小さく微笑んでいる。

 

「・・・久しぶり。」

照れ臭そうに、見た目からは想像もつかない優しい口調でそう言ってきたその男は、元彼だった。

スポンサーリンク
[我武者ら!] の【まおうさん】[我武者ら!] の【賢者の時間】[我武者ら!] の【Placebo2後編】[我武者ら!] の【Placebo2前編】

続きを読む

タイトル一覧へ戻る


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です